「なんなんだ、君は…!」
“フリーダム”のパイロット―キラ・ヤマトは、向かって来たザフトのモビルスーツと斬り結んで戸惑いの声をあげた。
フルスピードで向かってくる漆黒の機体は、“フリーダム”の斬撃を寸前のところで機体を反らせてかわし、スラスターを自在に操って軽やかに宙を舞った。
相手の執拗な攻撃を何とか防げてはいるが、こちらの攻撃も全てかわされている。
こんなことしている場合ではないのに…!
キラ達の目的はオーブ軍の戦闘を止めることだ。
目の前のザフトのモビルスーツに行く手を阻まれている今この瞬間にも、オーブの兵士の命が散っている。
それを目の当たりにしているカガリの苦しみを思って、キラは顔を歪めた。
そう考えを巡らせていた刹那、視界から黒い機体が消えた。
キラはハッとして機体を返して、死角から放たれたビームをシールドで受け止めた。
一瞬のことに、キラは背筋を凍らせた。
このパイロット、並のコーディネーターではない…
キラは直感的に特別な何かを感じていた。
体制を整えて“フェンリル”に向き直ると、突然眼下からもう1機のザフトのモビルスーツがこちらに向けて急迫してきた。
咄嗟に後退すると、赤いその機体は“フリーダム”と“フェンリル”の間に割り込んだ。
見覚えのある機体だった。先日、エーゲ海の海岸で再会したアスランが乗っていた機体だ。
《やめろ!キラ!》
「アスラン…!」
回線越しに聞こえてきた友の声は苛立っていた。
アスランは背後の黒い友軍機に向けても叫ぶ。
《ジーク!フリーダムは俺が説得します!だから…!》
《邪魔だ!アスラン!》
ノイズ混じりに、“フェンリル”のパイロットであろう男の怒声が聞こえてきた。
《もう説得なんて状況じゃねぇんだよ!これは敵艦として処理!今聞いただろ!?》
“敵艦”
聞こえてきたその言葉に、キラは苦々しく歯を軋ませた。
そうだ。自分たちがオーブの為を思ってしている行動は、ザフトにしてみれば敵だろう。
そして、今目の前に立ちはだかる友はザフトの兵士だ。
どうして僕らはまたこんなことを…
《なら…》
“フェンリル”のパイロットが言葉を続けていたが、回線を切り替えたようでキラには聞き取れなかった。
少しの間の後、“フェンリル”は“フリーダム“の前から離れ、再びオーブ艦隊に標的を変えて加速していった。遠くで“インパルス”もオーブ艦隊に向かっているのが見えた。
キラは慌てて“フリーダム”を駆り後を追おうとしたが、その進路に“セイバー”が立ちはだかる。
「アスラン!どうして君は!」
さすがのキラも苛立ちを抑えられず、怒鳴り声をあげた。
《お前たちこそ、なぜ分からない!?》
アスランも怒りに任せて叫ぶ。
《仕掛けてきたのはオーブ…地球軍だ!俺達じゃない!こんなことをする前に、カガリを連れて早くオーブに戻れと言っただろう!?》
キラは苦渋の表情を浮かべた。
先程の友軍のパイロットに何を言われたのかは分からない。だが、彼が自分達とザフトの間に挟まれて追い詰められていることだけは分かった。
《撃ちたくないと…キラ、お前言ったな?俺だって撃ちたくないさ!ジークに…ミネルバにも、お前達を撃たせたくない!だから、ここは退け!!》
視界の端で、オーブ軍の艦隊が激しい炎をあげたのが見えた。
その周囲を飛ぶ“インパルス”と“フェンリル”
散っていく自国の兵士達を前に我を忘れたかのようにカガリの“ストライクルージュ”が、艦隊に向かっていた。
「それは…出来ない」
キラは低くそう言うと、目の前の“ザフト兵”に向けてライフルを構えた。