#27

降り立った格納庫で、スティングはただ呆然と立ち尽くしていた。
「いやァァ!痛いっ…!痛いいたいいたい!」
頭を抱えてのたうつ少女の絶叫と、それを取り囲んで抑えようと必死になる大人たちの声。
「おい!担架!早く持ってこい!」
「やだっ!離して!触らないで…!」
「大丈夫だから!落ち着きなさい!」
今のスティングの頭はその音をどこか遠くの出来事のように感じていた。
ぼんやりとした意識で“カオス”を見上げる。
またも“フリーダム”によって大破した機体。その隣には、不自然に空いたスペースがあった。
出撃前、ここには水色の機体があった。
機体の色と同じ水色の髪をした少年が、勝ち気な笑みを見せて乗り込んで、スティング達と共に“戦争”に出たはずだった。
――アウル・ニーダが死んだ。
ザフトの“インパルス”と交戦していたアウルの機体“アビス”がシグナルロストしたことに気付いたのは、自分が“フリーダム”に武装解除されて撤退を決めた時だった。
アウルは、ロドニアの研究所ラボで共に育って、共にここファントムペインに配属された。
出生も分からず家族がいなかった自分にとって、兄弟のような存在だった。
『なぁ、俺らって何か大事なこと忘れてね?』
出撃する直前アウルが急に神妙な面持ちで言った言葉を思い出す。
あの時、「何を?」と聞き返したスティングに、アウルは苛立ったように答えた。
『それが分からないから聞いているんだろ?とにかく、何か分かんないけど気持ち悪いんだよ』
アウルの機体“アビス”があった場所のさらに隣、やはり空いたモビルスーツ1機分のスペースを見つめる。
“J.P.ジョーンズ”の格納庫はこんなに広かったか。
ファントムペインのパイロットは、研究所ラボからずっと一緒だったアウルと自分。そして、フィーネの…3人。
「さんにん…」
スティングは呟いた。
「スティング」
背後からネオが呼ぶ。
「ご苦労だった。少し休もうか」
いつもと変わらない穏やかなその口調は、何故か今はヒヤリと背筋を凍らせる。
ネオの後ろには自分を担当する研究員が控えていた。
スティングはもう一度フィーネの方に視線をやった。いつの間にか止んだ絶叫は、今は音にもならない浅い息遣いに変わっていた。
取り囲む大人達の隙間から彼女の白い腕が見えた。パイロットスーツを腰まで脱がされた状態でぐったりと身体をキャットウォークに投げ出した彼女は、その腕に何かの薬剤を注射されている最中だった。
釈然としない思いを抱えながらスティングは小さく頷いた。
白衣の男の後ろを歩きながら思いを巡らせる。
アウルと自分が忘れた“大事なこと”とは何だろう。もしかしたらフィーネも忘れてるのかもしれない。
何故、忘れたのだろう。
幼い頃から何も持たなかったはずの自分にあったらしい“大事なこと”

いったいどこで、いつから

俺達は失くしてしまったのだろうか…