「不明なブロックワード?」
ネオは訝しげに眉を顰めた。
「そんなもの、いつ設定した?」
ガラスの向こうのメンテナンスルームで眠る少女に視線をやる。
ミネルバの“フリッグ”に大敗して帰還したフィーネは、これまでに無いほど錯乱していた。
薬の効果が切れた時とは違う苦しみもがくその様子に、ネオも研究員も当惑して原因の調査に躍起になった。
ロード・ジブリールの所有物に不具合が生じたとバレてしまってはマズい。
フィーネの担当研究員も困惑気味に話す。
「彼女にブロックワードなんて設定したことはありませんよ。ジブリール氏から生体データについては全て引き継いでますが、そんな情報はどこにも…」
研究員の説明では、フィーネにはブロックワードが発動した時のエクステンデッドと同じ症状が確認されたという。
「何の単語がブロックワードとして作用するのか、それによって今まで何を閉じ込めていたのか、分からないんです。しかもその操作方法が私達のやり方とは違うようで…」
「もう、何がなんだか」と、研究員は肩を竦めて見せた。
マズいことになった…
エクステンデッドと同様に抑制としての効果なのか、何かの記憶なのか…分からなければ手の施しようがない。
これは今後の戦闘で命取りになりかねない。
ステラ、アウルと失ってしまった今、ファントムペインの任務はスティングとフィーネだけが頼りだ。
「ジブリール氏も知らないところで、ブロックワードを施した誰かが居るってことか…いったい誰が…」
もともと、フィーネはその存在に謎が多い。
コーディネーターを毛嫌いしているはずのブルーコスモスの盟主が、私兵としてずっと側に置いてきた戦闘用コーディネーター。
何処でなんの為に作られた兵器なのか、ネオも分からなかった。これまで、フィーネは自分に関することは曖昧にはぐらかすだけだったのだ。もしかしたら、彼女は本当に“知らなかった”だけなのかもしれない。
かつて死の恐怖が分からないと言ったように、こうしてメンテナンスを受けるずっと前から自分の本来の姿を忘れているのだ。
ネオは重々しいため息をついて、研究員に命じた。
「とにかく今は出来る限りのことをやってくれ。こうなったら多少のリスクはいとわない」
こちらで操作できる記憶と、手の加えようがない不明なブロックワードで目覚めた何か。
次に目覚めた時、彼女は“何者”になっているのか…
ネオは暗鬱な視線を穏やかな寝顔に向けた。