床に倒れ混んだ看護師をシンは見下ろしていた。
緊張で心臓が激しく拍動し、全身に嫌な汗が滲む。
「ステラ…」
声を潜めてベッドに横たわるステラに声をかける。
苦しそうに息をしていたステラが、ぼんやりとした瞳をこちらに向けた。
「ネオ…」
呼ばれた名前は、シンのものでは無かった。
混乱したステラがこれまで何度も口にした名だ。
シンには彼が誰なのか分からないが、きっとステラを守ってきた男なのだろう。
彼女を守ると決めたシンは、“ネオ”に嫉妬のような感情を覚えて顔を顰めた。
今の自分では、ステラを守れない…
シンはこのままだとステラの命がないことを知っていた。
昼間、いつものようにステラに会いに行こうと医務室に向かったシンは、通路で話す艦長と軍医の会話を聞いてしまった。
軍医は艦長にステラの命が長くないことを伝えると、「これ以上の延命措置は、解剖の支障になる」と事務的な調子で言った。
艦長もそれに対して冷静に返した。
『本国が欲しいのは“生きたサンプル”よ。出来れば生きたままジブラルタルに引き渡したいわ』
シンは絶句した。
彼らが今まで一生懸命ステラを治療していたのは、連合の貴重な情報として研究対象にする為だったのだ…
ステラと一緒に過ごした日は、短くとも既にシンの心の支えになっていた。その穏やかな場所が、足元から音を立てて崩れて去っていく気がした。
――自分は“ネオ”にはなれない。
目の前の少女を助ける道は、ひとつしかない…
シンはポケットに忍ばせたディスクに触れる。
その中身は密かにミネルバのコンピュータから落としてきた“ガイア”のデータだ。
意を決したように一度深く息を吐いて、彼女に笑いかけた。
「ステラ、帰ろう」
不安げに自分を見つめる彼女の小さな手を握る。ここに来てから、もともと華奢だった彼女の身体はいっそう痩せていった。
「俺は、約束を守るよ。君を守る」