#28

――シン・アスカが捕虜を連れて脱走した

深夜、艦長室からの呼び出しがジークとアスランの部屋に響いた。
焦った様子のタリアは、隊長であるアスランを艦長室に呼び、ジークにシンの“インパルス”を追うように指示を出した。今動ける機体はシンを除くとエアリス隊の2機だけだった。
「あの、バカ…!」
格納庫へ急ぐジークは、ミネルバのエースの顔を思い浮かべて舌打ちをした。
『約束したんです。俺…』
『エアリス隊長…俺、どうすれば…!?』
地球軍の強化人間エクステンデッドの少女を守りたいと、涙ながらに訴えた少年。
ステラの命がもう長くないことはジークも聞かされていた。命があってもジブラルタル基地に引き渡された後は、研究動物モルモットとしての扱いであることも。
ジークはタリアに「シンには教えない方がいい」と進言していた。
それでも、シンは知ってしまったのだろう。
ザフトの期待のエースパイロットとはいえ、まだ16の少年が必死に考えた“守る方法”。
結果生じる周りの損害や自分の立場の崩壊など微塵も考えない、幼稚とも言えるその行動にジークは同情する。
逃した先でステラは幸せだとは限らないのに…
通路を走るジークの頭に、一瞬遠い昔の記憶が過った。

ここよりずっと暗い通路。
見据えた先は暗闇だった。
『俺、お前のこと逃がそうと思う』
あの日、とにかく目の前の少女の涙を止めることに必死だった少年には、その先に待つ残酷な未来までは見えていなかった。
その場しのぎの救いの手は、ただの自己満足に過ぎない…




「追撃の必要はありません」
“フェンリル”の前に着いた時だった。
背後で聞こえた冷たい声に振り返ると、保安員に周りを囲まれたレイがこちらを見ていた。
「レイ…」
ジークは驚いたように目を見張った。
レイの手にかけられた手錠に、すぐに状況を理解した。
「お前がシンを手助けしたのか」
“インパルス”が出れるように管制室を占拠した何者かが居ると聞いていた。
「何で、お前が…」
「シンは逃げたんじゃない。必ず戻ってきます」
その表情はいつもと変わらない冷静なものだった。
「シンの気持ちは、貴方なら理解出来るはずだ」
ジークは返答に窮した。
重大な軍規違反を犯したシンを、いつものように冷淡に切り捨てることが出来ない自分の心の内を見透かされた気がした。
感情が読み取れないその顔のまま、レイはジークに初めて懇請をした。
「シンを待ってあげてください」