保安要員に連行されていくレイの姿に、アーシェは愕然とした。 
彼の手首に鈍く光る手錠。
常に冷静で克己的な彼のイメージに結びつかないそれに、アーシェは驚きといいようのない不安が湧き上がるのを感じた。
「シンが捕虜を連れて脱走した」と深夜のミネルバは大騒ぎになった。
シンの脱走にレイまで関わっていたということだろうか。そうであるならば、これは銃殺刑レベルの重大な軍規違反だ。
「レイ…」
レイはアーシェに気付くと、その冷静な顔に僅かに動揺が浮かんだ。
「なんで…」
彼はすぐに視線を前に戻すと、無言のまま歩きだした。
営倉へ連行されていくその後ろ姿をアーシェはただ黙って見送ることしか出来なかった。




“インパルス”から降りると、無数の銃口が一斉にシンを見つめた。
その真ん中に立つ白服の姿にシンは一度視線を泳がせて、やがて観念したような息を吐いた。
「やってくれたな、お前」
ジークは怒りとも憐れみともとれない表情を浮かべていた。彼は自身の後ろにずらりと並んだ保安要員に合図をすると、すぐさまシンを取り囲んだ。
「シン・アスカ。軍法第三条ほかの違反により、君を逮捕する」
保安要員の冷淡な宣告に、シンは無言で自らの手を差し出した。
手首にかけられた手錠の冷たい感触に、自分が侵した罪の実感がじわじわと湧いてくる。
「エアリス隊長、俺…」
「俺の役目はここまでだ」
ジークは額に手を当てて歎息した。
「俺はお前を叱責出来る立場にいない。ここからは、グラディス艦長と司令部の判断だ」
シンは唇をキツく結んで俯いた。
ステラへの想いを聞いてくれた彼に、叱責でも慰めでも何でもいいから言葉をかけて欲しかったのだ。
バカげた軍規違反だということは、自分が一番分かっている…
「シン」
保安要員に促されて歩き出したシンの背中に、穏やかな声が投げかけられた。
「ステラは、帰ったのか」
「…はい」
小さく頷くと、フッと彼が息を吐いた気配がした。ため息とは違う、穏やかに笑うような音だった。
シンは少しだけ不安に揺れる心情を打ち消すように頭を降ると、真っ直ぐ前を向いて歩きだした。