「ロシア平原ねぇ…」
慌ただしく“引っ越し”の準備をする大人たちをキャットウォークから眺めながら、スティングは言った
「また、えらく辺鄙なところに飛ばされることになったもんだ」
ネオはミネルバを追うことを諦めたらしい。
新しい任務のため、ネオとスティングはこれからユーラシア最北部に向かうと聞いた。
「きっと向こうは寒いわ…」
寒風が吹き荒れる雪原を想像して、フィーネは不満げな表情を浮かべた。
“負け”の後の北への移動は、余計に惨めに思えた。
雨も嫌いだけど雪も嫌い。濡れるのも寒いのも苦手だ…
「フィーネは戻るんだろ?」
「うん。ジブリールが帰って来いって」
ミネルバ追撃の任務が終わったならばフィーネのここでの役目は終わりだ。
恐らくこの情勢にジブリールは危機感を感じているのだろう。
長年彼の側に付き従っていたフィーネは、彼の焦りを知っていた。
情勢がプラント優位に傾いている今、自分の手の届くところに“武器”を置いて起きたいのだ。いざとなったら、彼の盾となるのが私兵である自分の役割だ。
「…フィーネ」
スティングが呼んだ。
「また、会えるよな?」
黄金色の瞳に哀愁が滲む。フィーネは「大丈夫」と慰めるように言った。
「また会えるよ」
別れを惜しむように2人はしっかりと抱擁を交わす。
「大丈夫」と言って抱き締めるのはいつもならスティングの役割だったのに、今日は彼の方が甘えただ。
フィーネは彼の背中を撫でながら思う。
これからまた、独りで“戦争”だ。
また共に戦う日はいつくるのかなど、飼われている身の自分達には分からない。
眠りから覚める度に互いの中に広がるこの喪失感は、いつか自我をものみ込んでしまうのだろう。
きっと、明日はまた違う自分だ。
「私達、戦う場所は同じだもの。また会える」
しばらく無言の間が過ぎたあと、フィーネはスティングの頬に優しく唇を寄せた。
形の良い唇が美しく笑った。

「それまで元気でね。スティング」