ユーラシアの最北部、ロシア平原に“ファントムペイン”の姿はあった。
地球連合軍の地上戦艦“ボナパルト”
大西洋連邦からの独立を主張する都市を粛清しろという命を受けたネオは、ステラとスティングを連れてこの戦艦に降り立った。
新たな拠点の格納庫は、これまでの戦艦とは違っていた。
戦隊の中央に位置する格納庫の天井はドーム状。
特殊な形状のその下には、巨大な兵器が鎮座していた。
GFAS-X1“デストロイ”
全高30mを超える超大型モビルアーマーだ。
「君の新しい機体だよ。ステラ」
傍らの少女に優しく語りかける。
長いメンテナンスを完了したステラは、ネオを見上げて首を傾げる。
「ステラの?」
「ああ、これに乗ってまた“戦争”だよ」
「戦争…」
何も知らない純粋無垢なこの少女を生かす道だ。
ネオはこれまでの自分の甘さを慚愧し、悪魔になる覚悟を決めていた。
「俺達は戦わないといけないんだ…悪い奴と。徹底的にね。でないと、俺達が殺されてしまう」
重い口調でそう言うと、ステラの顔に恐怖が浮かんだ。
「…ころされる?」
ネオは敢えて彼女を追い詰めるように続けた。
「ああ、今悪い奴が近付いて来ていてね。俺達を殺そうとしてるんだ」
「困ったもんだ」とわざとらしく肩を落とす。
いま、彼女の“性能”を最大限に引き出すにはこの方法が一番だ。
「しぬの、だめ…!」
涙を浮かべたステラが弱々しくネオに縋る。ネオはその顔を優しく両手で包み込んだ。
「なぁに、大丈夫。殺される前に、殺せばいいだけさ」
これまで、自分の中途半端な優しさが彼女たちから大切なものを奪ったのだ。
今度こそ勝たなければいけない。
その為ならば、自分は鬼にも悪魔にもなってみせる。
「殺す…そしたら、死なない。ネオもわたしも」
ステラは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
ネオが頷いてみせると、それまで恐怖に怯えていた表情が一変して晴れていった。
足取り軽く目の前の巨大な兵器に向かっていく少女の背中を見送りながら、ネオは一人の少年を思い出していた。
少し生意気そうな赤い瞳の少年。
ステラを返してきた“インパルス”のパイロットだ。
「死なせたくなから返すんだ」と、真剣な表情で彼は自分に叫んだ。だから約束して欲しいと。
『ステラを…戦争とか、死ぬこととは絶対遠い…暖かい場所に返すって!約束してくれ!』
悪いな、少年…
ネオは記憶の中の敵兵に言う。
“英雄”の君には、ステラのような哀れな“兵器”の運命など理解出来ないだろう。
この世界には、正義や理想とはほど遠い、無意味な戦争もあるのだ。
「ネオ」と自分を呼んで振り返った少女の顔は、無邪気で愛らしい笑顔だった。