#29

白い閃光が地を這う度、空間を貫く度に、その地獄は広がっていった。
サーチライトのように伸びる無数のビーム。
そのビームの根源を目の前にして、アーシェは戦慄を覚えた。
本体部と思われる上部は円盤状。その下に二本の脚が伸びている。
「なんなの、この機体…」
全高30mはゆうに越えているだろう巨大な機体は、圧倒的な火力でベルリンの街を焼き払っていた。
地球軍は一切の事前通告をすることなく、一方的に西ユーラシアの都市への攻撃を始めた。連合からの脱退を表明した都市の粛清だという。
眼下に広がる炎の海に、アーシェは顔を歪める。
地獄と化したここは、つい先程まで何の罪もない民間人がいつもと変わらない日常を過ごしていたはずだった。
ここは地球。ナチュラルが住む街だ。
なぜ、地球軍がここまで残虐にナチュラルを殺すのか。
それに…
無数のビームをかわしながら、辺りを見回した。
巨大な機体の周りを、無数の機体が飛び回っていた。
ミネルバから出撃した、“インパルス”と“フェンリル”、“フリッグ”。
そして、アークエンジェルの“フリーダム”とオーブの“ムラサメ”
クレタ沖で敵艦と認定した不明部隊と、今は何故か同じ敵を討つ為に戦っている。
これでは、何を討つべきなのか分からなくなる…
刹那、コックピットに鳴り響いたアラートがアーシェの意識を呼び戻した。
“カオス”が死角から放ったビームを、割って入った“フェンリル”がシールドで受け止める。
《ボヤボヤするなよ!アーシェ!》
“カオス”の兵装ポッドを撃ち落としてジークが叫ぶ。
《とにかくこのデカいのだ!他は放っておけ!》
「言われなくても分かってますよ!そんなこと!」
分かっているが、これをどうすればいいというのだ。
攻撃の火力も凄まじいが、この機体は防御まで鉄壁だ。こちらからの射撃は全てリフレクターで弾かれてしまう。
その巨体の前では、周りを飛ぶモビルスーツなどミニチュアのようだった。
対処法が分からない敵を前に、“フリッグ”が不満を伝えてくる。
「こんな戦争、全然楽しくない…」
これはただの殺戮だ。
“フリッグ”の横をシンの“インパルス”が駆けていく。
アーシェはシンの後を追うように、その巨大な敵に向かって“フリッグ”を急加速させた。