「どうです?圧倒的じゃないですか、デストロイは!」
ファントムペインから送られてきた映像を眺めていたロード・ジブリールは、興奮した様子で笑い声をあげた。
マルチモニターに映し出された“ロゴス”のメンバーは、それを不服そうに見つめていた。
一人が皮肉めいた口調で言う。
《確かに…これでは何も残らんわ》
残るメンバーも怪訝な面持ちで返す。
《どこまで焼き払うつもりなんだね?》
「“どこまでも”ですよ。そこにコーディネーターがいる限り徹底的にやらなくては」
ジブリールは手にしたワイングラスを揺らす。鮮血に似た赤い液体が波打った。
「コーディネーターと馴れ合う輩にも思い知らせなければならない。裏切れば地獄が待っているとね!」
納得の行かない様子の彼らに威圧するような視線を向けて、ジブリールは満足げに言い放った。
「街など焼き払ったあとにまた創ればいい」
まだ何か言いたげな彼らをよそにジブリールは一方的に回線を切ると、グラスの中身を一気に飲み干した。
彼の横に控えたフィーネは、無感情な瞳をモニターに向けていた。
炎に包まれた市街地。
地球連合からの脱退を叫び、プラントへの協力の意を示した都市が、次々に破壊されていく。
ここにはザフトの部隊が駐留しているはずだが、彼らはたった1機の超巨大兵器を前になすすべ無く散っていった。
これは“戦争”なのだろうか。
少なくとも自分が好む“戦争”ではないのは確かだろう。
激しい炎の中にいるのは、憎きコーディネーターだけではない。地球軍にとって同胞であるはずのナチュラルも避難の時間を与えられぬまま無残に殺されているのだ。
好きなやり方ではないけれど…
フィーネは小さくため息をついた。
ここでただ眺めているだけの自分より、あの“デストロイ”のパイロットの方がずっと主人の役にたっている。
嫉妬に似たもどかしい感情を抱きながら、目の前の地獄絵を見つめる。
“デストロイ”の周囲にはまだ僅かに敵機が生き残っていた。
“インパルス”と“フェンリル”
そして、“フリッグ”
もう嫌というほど見慣れたモビルスーツだった。
瞬間、フィーネの視界がぐらりと揺れた。
僅かによろめいたのを、モニターに夢中になっているジブリールは気付いていない。
気に食わない…
フィーネは顔を歪めた。
額に手を当ててモニターに映った銀色のモビルスーツを睨む。
ファントムペインに残っていれば、あれと戦えたのに…
「ジブリール」
苛立ちを悟られぬよう、平静を装って話しかける。
彼がこちらを見ることはなかった。
「少し疲れたの。部屋に戻ってるね」
「ああ」とそっけない返事の彼を残して、フィーネはシェルターを後にした。




キングサイズのベッドに身体を投げ出したフィーネは、ぼんやりと天井を見上げた。
退屈だ。
退屈過ぎて何もかも面白くない。
ジブリール邸に戻ったところで、やる事など何もない。ただジブリールのご機嫌とりをしているだけ。
これでは、飼い殺しだ…
ただの愛玩用ペットになったつもりはない。自分は兵器なのに、こんなところに長く置かれたら錆びついてしまう。
「戦闘用では落ちこぼれ…」
いつも夢の中で聞く言葉を呟いた。
自分を嘲笑う見知らぬ男の声だ。
「誰よ…あんた」
顔を歪めて見知らぬ声の主に吐き捨てた。
断片的だった記憶は、日に日に一貫性のあるひとつのストーリーとして成り立とうとしていた。
頭の中に散らばるピースがピタリとはまる度に、これまで自分を悩ませていた身体の不調も軽くなっていく。
このパズルを完成させれば全力で戦える気がしていた。
だが、あと少し何かが足りない。
先程見た映像を思い出す。
ザフトのモビルスーツ、“フェンリル”と“フリッグ”
自分の身体が一際拒絶を示すのはあの2機だ。
あれを殺してしまえば、“落ちこぼれ”ではなくなるだろうか。
「はやく殺さなきゃ」
“フェンリル”も、“フリッグ”も…コーディネーターはみんな。
自然の摂理に反した化け物は、殲滅しなければならない。
それがジブリールが目指す「青き清浄なる世界」で、それを成し遂げる為の力が自分だ。
フィーネは痛む頭を抱えて身体を丸めた。
ゆっくりと瞳を閉じながら願う。
次に目覚めた時こそ、パズルが完成していますように…