《私は、プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです》
突如全世界に向けて始まったプラントのトップの緊急メッセージが、ミネルバの艦内中に響いた。
レクリエーションルームに居たアーシェとルナマリアは、壁面モニターに映る男の顔を注視する。
《未だ我らと地球の方々との戦いが終戦とならないなか、このようなメッセージを送ることをお許しください。ですが、私は皆さんに知って頂きたいのです…この戦争の本当のあらましを…》
憂いを帯びた口調とともに映像が切り換わった。
映し出されたのは、つい先日のベルリンの戦闘だ。地球軍の超巨大モビルアーマー“デストロイ”が、ベルリンの市街地を焼き払う悲惨な映像…
アーシェは実際に見たあの地獄を思い出して顔に痛みがはしった。
《これは過日、地球連合軍がユーラシア中央から西側に向けて侵攻したときの映像です。連合の新型破壊兵器は、何の勧告もなしに攻撃を始め、我々ザフトだけでなく住民もろとも焼き払っていきました…何も罪もない、民間人…幼い子どもまで!》
ふと、アーシェはこの映像に違和感を感じて眉を寄せた。しばらくモニターに目を凝らして気付く。
共闘したはずの“アークエンジェル”側のモビルスーツがひとつも映っていないのだ。
まるでザフトだけで阻止しようとしたかの映像だった。実際には“フリーダム”の活躍も大きかったというのに。
突然こんな映像を流して、議長は何を伝えたいのだろう。
《いったい何故…我々と手を取り合い、平和への道を歩もうとしていたユーラシアの人々を、彼らは“裏切り者”として虐殺したのでしょう?ナチュラルとコーディネーターは分かり合えない?互いに憎むべき存在?そんなこと、いったい誰が決めたのでしょう?》
デュランダルは力強く世界に語りかけた。
《それは、いにしえから争いの裏で操る者がいたからです。憎しみを増長させ、戦え!撃て!と。自分達の利益の為に…今回の惨劇も彼らの仕業なのは明らかです》
「これは…」
議長の意図を理解したアーシェは、凍り付いたようにその場に立ち尽くした。
ルナマリアも戸惑いを隠せない様子だった。
「アーシェ、これってディオキアで…」
アーシェは硬い表情で頷く。
「本当にやるつもりなのよ。議長は…」
ディオキア基地で議長が自分達ミネルバのパイロットに語ったことを思い出す。
議長は本当に世界を変えようとしている…
あの日『何より難しい』と言っていた理想を、いま実現させようとしているのだ。
――これは、世界の闇への宣戦布告だ。
再び画面が切り替わり、今度は9人の顔写真が映し出された。
《我々コーディネーターのことを忌み嫌うブルーコスモスも、“彼ら”の作り出したものに過ぎません。その背後にいる“彼ら”…軍需産業複合体、死の商人“ロゴス”!》
実名とともにずらりと並んだそれは、グローバル起業の経営者たち―“ロゴス”の幹部だ。
《彼らこそが、世界の真の平和の為に我々が討つべき敵なのです!》
デュランダルが声高らかに世界に告げる。
《私は今ここに宣言いたします!もう二度と戦争など起きない平和な世界を手に入れるために、彼ら“ロゴス”を必ずや滅ぼすと!》




同じ放送を、ジークはひとり自室で眺めていた。
デスクトップに映る9つの顔写真のひとつ、白髪の男の顔を睨む。
ブルーコスモス盟主―ロード・ジブリール。
殺すことだけを切望してきた怨敵だ。
ただ戦場に出るだけではなかなか尻尾を掴むことが出来なかったこの男を、やっと公に引きずり出して殺す大義名分を手に入れた。
ふつふつと湧き上がる高揚感に、ジークは天を仰いで大きく息を吐いた。
「もう戦争ごっこは終いだ」
愉悦に染まった瞳を閉じて、その男が大事に囲っている“飼い猫”に想いを馳せる。
神秘的に揺れるオッドアイ。
美しいその宝石を、永遠に自分のものにしたいとずっと求め続けてきた。
幼い頃の約束を果たすというのは体のいい言い訳だと、ジークは自身の醜い感情に気付いていた。
先の大戦で再会した時、成長した彼女の姿を一目見て「欲しい」と思ったのだ。
それまで、戦う為の力以外で欲しいものなど何も無かった。初めて見つけた渇望するほど欲しいもの…
――今度こそ手に入れてみせる。

「なぁ、フィーネ」