「やはり、駄目かな?アスラン・ザラは…」
基地宿舎内にあるVIPルーム。
上質なソファにゆっくりと身体を預けたデュランダルは、落胆の声を吐き出した。
物憂げな視線を目の前に立つ2人の兵士に向けると、彼らは神妙な面持ちで頷いてみせた。
「思っていた以上にかつての仲間への想いは強かったようで…」
兵士の一人、レイが資料を差し出す。
デュランダルはそれを捲って再びため息をついた。
資料に映るのはアスランと“フリーダム”のパイロット―キラ・ヤマト、オーブ代表首長カガリ・ユラ・アスハが密会している場面だ。
もう一人、ジークが冷たい口調で言った。
「任命された議長に申し上げるのも恐縮ですが、奴はアークエンジェルが現れて以降、さっぱり使い物になりません」
「そうか…彼は“戦士”にはなりきれないか」
ジークは冷然と頷いた。
「余計なことを考え過ぎて“性能”を活かしきれていません。あの性格は、整備しようのない重大な“バグ”かと」
「キラ・ヤマトのせいかな?彼と出会わなければ、アスランにも優秀な兵士としての輝かしい未来が待っていただろうに」
「残念だ」と手にした資料をテーブルに放った。
「ところで、ジーク」
「はい」
穏やかに瞳を細めてジークの顔を注視する。
整った顔の左頬には青痣。もともとある彼の右目の傷と相俟って痛々しく見えた。
「その顔は?どうしたんだい?」
面白がるようなその視線に、ジークは不満そうに視線を逸した。
「そんなところ、出撃で負う怪我ではなさそうだね」
「いえ。大したことでは…」
「アスランです」
曖昧に濁すジークの言葉を、隣のレイがすかさず遮った。
「先日の“エンジェルダウン作戦”終了後もアスランは問題行動を起こしています。フリーダムを討ったシンに激昂して掴みかかり、それを止めに入ったエアリス隊長にもこのように暴行を」
レイの説明に目を丸くしたデュランダルは、吹き出すように声をあげて笑った。
「殴られたのか?君が?」
「やられた分は自分もしっかり返しましたので」
気にしていないとジークはそっぽを向いた。
珍しいこともあるものだ。
常に冷静沈着な部下の滅多に見れない不貞腐れた様子を、デュランダルは興味深そうに観察した。
やがてジークが呆れたようにため息をつく。
「議長…」
「いや、悪い」
こみ上げる笑いを堪えるように、デュランダルは手を口元に添えたまま謝罪した。
「何にせよ、勇敢に任務を遂行してくれた君達への暴力は理不尽極まりない。私も看過できないよ」
レイが淡々とアスランへの糾弾を続ける。
「アスランは今回の任務について、あれは敵ではない、討つべきではなかった、と司令部への反発を口にしています。エアリス隊長への暴行とともに多くのクルーがその場で目撃しています」
「罪状は充分にあると?」
「はい」
デュランダルは沈鬱な表情を浮かべて立ち上がると、ゆっくりと窓際へと歩を進めた。
いつの間にか外には雨が降っていた。
「あとは君達に任せるよ」
抑揚のない口調でそう言った男の背中に、ジークとレイは敬礼した。