ディアッカ・エルスマンは焦っていた。
「…退がれ!ひとまず退がるんだ!」
ジュール隊の“メテオブレイカー”によって、ユニウスセブンの巨大な大地が裂けた時、彼の操縦する“ザク”の装甲を一発のビームが掠めた。
突如現れたそれに、ディアッカはこれまでの疑問の答えが出た気がした。
100年単位で安定起動にいることが保証されていたユニウスセブンの移動。不運な自然現象か、人為的か…

――この答えは、最悪だ

目の前に立ちはだかる“ジン”に、ディアッカは顔を歪めた。
改造されているようだが、それは本来ザフト軍の機体だった。
《ジュール隊は作業を続けろ!》
ディアッカの“ザク”の横を、赤いフレームの友軍機が駆けた。
《ここは俺達がやる!》
エアリス隊副長グレイ・ワイアードが乗る“ガルム”のビームサーベルが、“ジン”を斬り落とす。
《すぐ隊長が来る!それまで持ちこたえろよ!》
ガルムの後に続いた2機のザクもジンを次々と撃ち落として行く。
予期せぬ事態に当惑するジュール隊とは対象的に、エアリス隊のモビルスーツ隊は少数でありながら冷静な立ち回りだった。
友軍機の頼もしい戦いぶりに安堵を覚えたディアッカは、背中を彼等に任せることを決意する。敵の攻撃を交わしながら再びメテオブレイカーを構えた。




久しぶりに身に纏ったパロットスーツの窮屈さに、ジークは懐かしさを覚えた。
停戦後から出撃はグレイ達部下に任せれば事足りていて、自らモビルスーツに乗るのはもう随分と久しぶりだった。
コックピットに乗り込んでOSを立ち上げると、フェイズシフト装甲の機体はジークのイメージカラーである黒に色を変えた。
明るくなったモニターに機体名が浮かび上がる。
“フェンリル”
地球のどこかの国に伝わる神話に由来するその名は、彼が“狼”と形容される由縁のひとつとなった。
コックピットのシートに響く振動が、ジークの全身の血を沸き立たせた。久しぶりの感覚に、冷然としていたジークの顔にうっすらと喜びの色が現れる。
「…悪いな」
期待に震える自分の身体と、幾多の戦場を共にしてきた相棒に言い聞かせるように呟いた。
「今日はそんなに楽しめるもんじゃないんだ」
ブリッジに回線を繋げてクロエを呼ぶ。
「グレイたちは?」
《予定通り進行しています》
「ちゃんと時間を見てやれと言っておけ。早過ぎてもだめだ」
《了解》
「サトーは俺がやる。あいつの最期の頼みだ。後は任せたぞ」
カタパルトに機体を進めると、開いたハッチの向こうに宇宙が広がる。ジークはそれを真っ直ぐ見据えて、管制に告げた。

「ジーク・エアリス、フェンリル出るぞ!」