「直上に降下ポッド確認!」
“ヘブンズベース”司令室。
オペレーターの報告に、ジブリールは不敵な笑みを浮かべた。
司令室とガラス一枚隔てた貴賓室からロゴスのメンバー達は戦況を見つめていた。今まさに敵軍が攻めてきているというのに、彼らの顔には焦りの色は無い。
宇宙から降り注ぐ無数の降下ポッドが開き、中からモビルスーツが現れる。
“ディン”、“ザク”、“ゲイツ”
たちまち上空を覆った夥しい数のザフトのモビルスーツの群れにも、司令室は冷静だった。
「ニーベルング、発射用意」
司令官が命じると、基地外れにある小山が真っ二つに割れた。
雪に覆われた大地の下からゆっくりと現れたパラボラ状の兵器。
対空掃射砲“ニーベルング”
直径10kmの巨大な目に似たそれは、宙域からの攻撃に備えた、ヘブンズベースの秘密兵器であった。
軍の施設とは場違いな豪華な装飾を施された部屋から、男達は愉悦に満ちた表情でその様子を見つめる。まるで、何かのショーを観ているようだった。
銀色に光る巨大な目が迫りくる敵機を見据える。
司令官の号令が司令室に響き渡った。
「発射!」
刹那、眩い閃光が基地上空を覆い尽くした。
ジブリールは真っ白になったモニターに目を細め、次に映し出された光景に満足気に高笑いをあげた。
興奮気味に立ち上がると、周囲に座る男達にオーバーな動作で語る。
「さあ、議長殿が調子に乗っていられるのもここまでだ!ヤツに後悔させてやりますよ。格好つけて自ら前線に出てきたことを!」
つい数秒前まで上空を覆いつくしていたモビルスーツの影はそこにはない。
今、上空から降り落ちてくるのは、粉のような細かい雪と炎に覆われた鉄くずだけだった。




「降下部隊が消滅…?」
ブリッジからの報せに、アーシェは目を見開いた。
回答期限を待たずして不意打ちの先制攻撃を受けたザフトは動揺していた。
加えて頼みの綱だった宇宙からの増援は呆気なく敵の巨大兵器によって全滅。
そして、今こちらに“デストロイ”が迫ってきている。西ユーラシアの都市をたった1機で焼き払ったあの巨大兵器が、5機も投入されているというのだ。
僅かな時間に戦況は圧倒的不利に陥っていた。
けたたましい警報音が鳴り響く中、ミネルバの新たな管制官アビー・ウィンザーがパイロットへ発進を合図する。
先を行くジークの“フェンリル”、グレイの“ガルニ”の後に続いて、アーシェも機体を進めた。
圧倒的不利になったこの状況でも、“彼女たち”は悲観しなかった。
「ここを覆せたら、貴女は本当に女神ね。フリッグ・スキャルブ」
――混乱する戦場に降り立ち人々を魅了する女神
父、アルフォンス・ヘインズが目指した芸術だ。
「でもね、フリッグ…」
アーシェは自嘲気味に笑った。
「普通の人はね、強すぎる力を前にすると引いてしまうものよ」
この力で戦況を覆すことは出来ても、自分たちの戦い方は褒められたものではない。
「この姿に魅せられるのなんて、きっと私たちと同じ生きもの…獣くらいよ。お父様は見誤ったわね」
そもそも、製作者本人が普通の人では無かったのだ。狂者が創り出した芸術は、同じく何かが欠落した者で無ければ理解出来ないだろう。
万人に賞賛される芸術など存在しない。
深い青の双眼を閉じて覚悟を決めたように深呼吸をした。
「さあ、行こう」
ゆっくりと瞼を開くと、進路がグリーンに変わった。アーシェは意気高く管制に告げる。

「アーシェ・ヘインズ。フリッグ・スキャルブ、行きます!」