無数の熱線を潜り抜け、漆黒と真紅の2機のモビルスーツは目の前の巨大な敵機に向かっていった。
要塞のような巨体の左右から浴びせたビームは、機体全体に展開されたリフレクターによって弾かれた。
《いいねぇ!こいつ!》
真紅の機体“ガルム”からグレイが上機嫌に叫ぶ。
《うちもたまにはこういう派手なの造ろうぜ!ジーク!》
漆黒の機体“フェンリル”を上昇させて、ジークは改めてその機体の全貌を見下ろした。
「まぁ、この火力は認めるが…」
“デストロイ”
西ユーラシアの4つの都市をたった1機で壊滅させ、「ベルリンの悪魔」と恐れられたバケモノだ。
円盤状の本体部、その下に伸びる折れ曲がった脚…その姿はカブトガニを彷彿とさせた。
「デザインが好みじゃない」
“フェンリル”を急降下させながらビームサーベルを抜き放った。
黒い狼のスピードに全高30mの巨体は為す術がなかった。機体のメインカメラにサーベルを突き立てて、ジークは淡白な口調で言う。
「俺、甲殻類苦手なんだよ」
“フェンリル”が敵の視界を奪ったと同時に、背後に周った“ガルム”が背負っていた対艦刀を抜いた。
初めて相見えた時こそ苦戦はしたが、攻撃、防御力ともに桁違いの“デストロイ”にも弱点はあった。
その巨体ゆえ機動力に欠けるそれは死角が多いのだ。
“ガルム”がその巨体に向けて真っ直ぐ巨大な剣を振り下ろす。真っ二つとなったその円盤状の本体部から激しい炎が吹き出した。
目の前の“デストロイ”の爆発を見届けて、ジークは冷静に周囲を見渡した。
残る“デストロイ”も、それぞれミネルバ隊、ジュール隊に囲まれている。
さらに遠くの海岸でモビルスーツ形態となった巨体が黒煙をあげて倒れていくのが見えた。
それを見下ろす銀色の機体。
「フリッグ…」
単機で“デストロイ”を撃墜した部下に、ジークは目を見張る。
同じくそれに気付いたグレイが感心したように呟いた。
《楽しそうだな。アーシェ》
――ああ、そうだ。
バチバチと火花を散らしたモニターが映し出した不鮮明な映像に、スティングは目を細めた。
こちらに向かってくる真白い友軍機を認識した途端、スティングの身体は猛火に包まれる。
熱さも痛みも感じない、一瞬で眩いばかりの白い世界へと飛ばされた意識で、スティングは一瞬見えたあの友軍機の名を思い出した。
“アレウス”
氷雪の大地を思わせるモビルスーツに乗っているのは、美しい少女だ。
『スティング』
桃色の唇が小さく開き、澄みとおった音を奏でた。
左右異なる色の瞳はまるで宝石のように美しい。
――謝らなきゃな
かつて「君だけは忘れないで」と目に涙をいっぱいに溜めて訴えた彼女に、自分は今日酷い事をしてしまった。
彼女は気が強いようにみえて、本当は臆病で寂しがり屋だ。きっと深く傷付いただろう。
守りたい、大事な人だったのに…
スティングは穏やかな息をついて、ゆっくりと瞳を閉じた。
ちゃんと謝って、今度こそちゃんと伝えよう。
「フィーネ…」
――君が、好きだった。