四肢を失い仰向けに墜落した“フリッグ”を見下ろして、フィーネは花唇を綻ばせた。
大きく避けたコックピットハッチの隙間から、機体の“部品”が見えた。
ヘルメット内部で出血したのか、シールドは赤く染まって顔は確認出来ない。ただ、赤いパイロットスーツを身に着けた華奢な体つきから、それが女であることは分かった。
確認せずともこの“部品”がどんな顔をしているのか、どんな声なのか、フィーネには容易に想像出来ていた。
「やっと、やっとよ…」
湧き上がる多幸感にフィーネの頬が上気する。
薬の効果とは違う。全身が心からの歓喜に震えていた。
「これで、私は…!」
やっと、私を否定する全ての言葉から解放されるのだ。
コックピットに標準を合わせた。興奮で震える指でトリガーを引き絞ろうとした時、コックピットにアラートが響いた。
突如現れた“グフイグナイテッド”がこちらに向けてビームを浴びせてくる。
最近ザフトに配備されたという青い量産型とは違う色。白いカラーリングを施された機体だった。
「指揮官か、エースか…」
距離を取ろうとするが、“グフ”の右腕から飛び出した鋼鉄の鞭が素早く“アレウス”の左腕を絡めとり後退を許さない。
過去“グフ”との交戦経験があるフィーネは、次に来るであろう攻撃を予測出来た。
「ごめんね、アレウス」
苦々しく歯噛みをして右腕でサーベルを抜く。
躊躇なくその刃を拘束されている腕に当てると、自らでそれを斬り落とした。
片腕くらいなんてこと無い。
強引に拘束を解いた“アレウス”は、即座に地面を蹴り上げて目の前の“グフ”に向かった。
彼女達の予想外の行動に“グフ”が一瞬たじろいだ。
――殺れる!
確信した刹那、再び鳴り響いたアラートが“アレウス”の行く手を阻んだ。
今度は頭上だ。
降り注ぐ閃光が“アレウス”の白い装甲を掠め、脚元の雪の地面を一瞬で溶かす。
フィーネは顔を歪めた。
「フェンリル…!」
上空から漆黒のモビルスーツがこちらに銃口を向けていた。
“フェンリル”が“フリッグ”の前に降下する。
“グフ”と“フェンリル”―2つの指揮官機は、“フリッグ”を守るようなかたちで“アレウス”の前に立ちはだかった。
その光景に、フィーネはハッとして息を詰めた。
傷付いた“女神”の前に立つその姿は、宛ら騎士のようだ。
血を沸かせる激情が急激に冷めていく。
漆黒の狼が銀色の女神を守ろうとしている。
突き付けられたその現実は、フィーネを絶望に突き落とすには充分だった。
仕方ないと、悪いのは自分だと、覚悟を決めたはずなのに。いざその現実を目の前にすると、臆病だった“スペア”が顔を出す。
「そんなにそれが大事…?」
モニターを見つめる視界が滲む。
今“フリッグ”との戦いを制したのは私達だ。
そんな旧式のモビルスーツより、“アレウス”の方が強いのに。
私はここまで強くなったのに。

『じゃあ、俺が守ってやる』
記憶の中の少年が自信ありげに笑った。

「どうして、君がそれを守るの?」
――強くあろうとするほど、君が遠くなる。