「フィーネ・ハゼット…」
ミネルバの艦長室。
この部屋の主であるはずのタリアは、自分のデスクの前に立っていた。
目の前の自分の席に座る最高司令官は、タリアが差し出した取調べ調書を興味深そうに読み込んでいる。
「どうだった?彼女は」
「どうって…」
何故か上機嫌に見えるデュランダルに、タリアは眉を顰めた。
「確かに重要参考人でした。ジークがわざわざ連れて来た理由も納得出来ます。でも…」
タリアは難しい顔でデュランダルの手にある調書に視線をやった。
そこには、こちらがいちばん欲しい情報は記載されていない。
「一筋縄ではいかない相手ですよ。ジークは必ず口を割ってみせると言ってましたけど」
捕虜の少女―フィーネは、結局あの場ではジブリールの逃亡先について吐くことはなかった。
記憶をいじられている可能性も考えてタリアは彼女は本当に“知らない”のではとジークに言ったが、彼は「大丈夫だ」と断言していた。
ジークのあの苛立ちようが、どうも引っかかる。
フィーネはジークのことを覚えていないと言っていたが、過去にあの2人には何があったのだろう。あの“餓狼”が、そう何度も敵を討てずに放っておくものか。
何故、フィーネは彼の部下のアーシェ・ヘインズと同じ容姿をしているのか…
ふと、彼女が流暢に語った“役割”を思い出して、タリアは吐き気に似た感覚を覚えた。
彼女を取り巻く環境がそうさせたのか、終始余裕の笑みを浮かべていた少女は、畏れを覚えるほど妖艶だった。
正直、あの子とずっと対峙していると身が竦む…
一見人当たりが良さそうでいてどこか冷ややかなその雰囲気は、外見が瓜ふたつのアーシェよりジークの方に似ていると思った。
「フィーネ、か。ロード・ジブリールが所有していたコーディネーター…」
司令部にとっては取るに足らない情報しか載っていないたった1枚の紙を、デュランダルは未だまじまじと見つめ続ける。
「彼女が乗っていたモビルスーツは回収出来たのか?」
「はい。先ほどグレイ・ワイアードが帰還しました」
とはいっても、もうモビルスーツとしての形は残っていない。ジークによって無惨なまでに破壊されたそれは、回収したところで使い物にはならないだろう。
それでも「データが取れればいい」とデュランダルはタリアに命じた。
「そんなに彼女が気になるのでしたら、ご自身で取調べすれば良かったのでは?」
最高司令官なのだから、立ち会えば良かったのだ。
不審な眼差しを向けるタリアに、デュランダルは「すまない」と困ったように笑った。
「今私まで現れたら混乱してしまうだろう?彼女は…」
「…え?」
デュランダルは調書をデスクの上に置くと、深く息を吐いて椅子の背もたれに身体を預けた。
「焦らずとも、今後ゆっくり話せるだろうからね」
天井を仰いで橙の瞳を閉じる。
ベブンズベース基地を陥落させたとはいえ肝心のロード・ジブリールの逃亡を許し、彼自身の目的は不完全燃焼で終わった。
だというのに、今その表情は達成感に満ち溢れて満足げであった。