L4宙域―中立コロニーが浮かぶ空間に、2機の鈍色のモビルスーツが駆けた。
強行偵察型ザクを駆るパイロットは、澄んだグレーの瞳を動かして辺りを目敏く探っていた。
途端、回線を繋いでいたもう1機のザクから退屈そうなあくびが聞こえ、眉を寄せる。
「…イル」
エアリス隊所属、エルヴィン・ハルネスは不満げに相棒を呼ぶ。
「ちゃんとやって」
《やってるよー》
モニターに映る少女―イルミ・アーベルが無邪気な笑顔を見せる。
「いい加減見つけなきゃ、ジークに叱られる」
《叱らないよ。ジークは》
イルは口を尖らせた。
《うるさいのはグレイ》
「まぁ、そうだけど…」
《ほんと、イルだって早く見つけたいと思ってるもん。かくれんぼ、そろそろ飽きちゃったし》
“かくれんぼ”
ふたりはある戦艦の捜索任務に出ていた。
“エターナル”
先の大戦中にラクス・クラインが率いるクライン派によって奪われたザフトの戦艦だ。地球にいる“ミネルバ”が“アークエンジェル”と“フリーダム”を討った今、残る“エターナル”も処分しておかなければならない。
「一刻も早く」と、大人たちは随分と深刻な様子だった。
正直、エルヴィンとイルミにはこの任務の重要性が分からなかった。優しい歌声のピンクの歌姫を何故そんなに大人達は恐れているのか。
捜索は暗殺の次に嫌い。地味な任務だとむくれる2人に、秘書官のクロエは優しく諭した。

『お姫様は、いずれ狼の邪魔をするわ』

「ジークの邪魔をするってことは“悪い奴”だよ。早く殺さなきゃ」
《うん。それに、ちゃんと見つけて殺せたたら“ご褒美”くれるって言ってたしね》
もうすぐふたりの上官―ジーク・エアリスが長期任務を終えて地球から帰ってくる。“ご褒美”も楽しみだが、それが何より嬉しかった。
ふたりはジークが大好きだった。
廃れた研究所で野垂れ死にそうになっていた自分達を救ってくれたヴァン・エアリスの息子は、父親に似て優しい人だった。
優しい彼はいつも自分達をワクワクさせてくれる。誰よりも強い彼が用意してくれる“戦争”は、自分たちの胸を踊らせた。
暖かい場所、美味しいもの、楽しい戦争…暗闇しか知らなかった自分たちに、光を与えてくれたエアリスという親子こそ英雄ヒーローだ。
エアリスの役に立つことなら何だってする。
異常な環境で兵器として育てられた少年達にとって、“正義”や“平和”などといった綺麗な言葉の意味は分からない。ただ、大好きな人の命令こそが全てだった。
ジークに褒めてもらいたい。エルヴィンとイルミはその一心で戦っている。
《きっと、“ご褒美”は新しい機体だよ。今度は何色にしようかな?》
イルが声を弾ませた。
「僕、黒がいい」
《イルも黒がいいなぁ》
黒はジークのイメージカラーだ。
はやく会いたいなと、大好きな人に想いを馳せていると2機のコックピットにアラートが鳴り響いた。
周辺に設置していたセンサーに反応があったのだ。
すぐ様宙域図を確認する。
ある無人コロニーから小さなシャトルが出て来たようだ。
モニターを見つめるエルヴィンの瞳が好奇に揺れた。
コロニーの名は“メンデル”
かつて遺伝子研究のメッカと称された学術都市。C.E.68にバイオハザードが発生してから廃棄コロニーとなったそこに、現在好き好んで出入りする者といえば何か疾しい事情を抱えている者くらいだろう。
ふたりはモニター越しに顔を見合わせて無邪気に笑う。

「みーつけた!」