「――まったく…どういうおつもりですか?病室で発砲沙汰とは」
時間をおいて戻ってきた担当の軍医はだいぶ苛立った様子だった。
「絶対安静だとあれほど言ったというのに」
ジークに小言を投げつけながら、フィーネの身体に外れてしまった計器のコードや点滴を取り付けていく。
「何としても生かすよう言ったのは貴方ですよ。何が害になるか分からないというのに、刺激することは避けて頂きたい」
尚も軍医は厳しい言葉を続けていたが、ジークは彼の言葉に気のない相槌を打つだけで、視線はベッドに横たわるフィーネに向けられていた。
再び眠りに落ちた彼女の静かな寝顔をジッと見つめ、やがて病室を後にしようとドアの方へ踵を返した。
「彼女のこと、頼む」
「直ぐに戻る」と背を向けたまま言えば、軍医のうんざりしたようなため息が響いた。
病室を出たとき、部屋の前にはアーシェとイザークが待ち構えていた。
アーシェは険しい表情でジークに詰め寄ると、横面めがけて手を振り上げた。
ジークが覚悟を決めた次の瞬間、頬にはしった衝撃は驚くほど弱々しいものだった。
衝撃と表現するのも悩ましいほどのそれに、ジークはあ然として小さく口を開けた。
「アーシェ…」
「だから、私…人を殴ったことないって、言ったじゃないですか」
鋭く自分を睨みつける彼女の目からひと粒の涙が溢れ、頬についた涙の跡を上書きするように伝った。
「モビルスーツは優秀ですけどね…生身の人間をどうこうするのは、苦手なんです…」
「練習する暇もなかったし」と、アーシェは震える声で吐き出す。
弱々しいその叱責に、ジークは息が詰まるほどの罪悪感を感じて顔を顰めた。
「…本当に、すまなかった」
頭を下げたジークの頭上に、呆れたようなため息が降ってきた。
「許さない」
ジークは沈鬱な表情で目を閉じる。
端から許されたいとは思っていなかった。
「一生根に持ちます。こんなの裏切りです。可能なら1回死んどいてほしい。私、あなたのせいで死にかけてるんですよ」
「信じられない」「バカなんですか」と、アーシェは悪態をつき続けた。それでもその言葉はどれも生易しく、言い慣れていないのか口調は辿々しい。
アーシェらしい、とジークは思う。
何も言わずにアーシェの糺弾を受け入れていると、今度は穏やかに笑うような音がした。
「だから、これからしっかり償ってもらいます」
その声色に驚いて顔をあげる。
目の前にあった彼女の顔は穏やかだった。ブルーサファイアを揺らして微笑むその姿は、いつものアーシェだ。
「私の“妹”…ちゃんと守ってもらえますか。今度こそ、あなたの手で」
トンと、アーシェはジークの胸を叩いた。
「大事な人、なんでしょう?なら、守ってくださいよ。ここまでしておいて、あの子に何かあったら…その時こそ、私はあなたを軽蔑します」
「あんなことした私が言えたことでないですけど」気まずそうに視線を逸らす。
「捕虜への暴行は軍規違反です。罰はちゃんと受けます…」
ジークは茫然としながら、彼女の後ろに控えたイザークを見やった。彼は何も言わず、やれやれといった様子で大きく肩を竦めてみせた。
息苦しいほど胸を埋め尽くした様々な感情にジークは目を細め、再び謝罪の言葉とともに頭を下げた。