#04

「ローマ、シャンハイ…ケベック…」
「痛ましいことだ」
ユニウスセブンの落下によって変わり果てた姿となった地球の都市の映像に、彼らは口々に哀れみの言葉を呟いた。
「それで?何の手掛かりも得られなかったと?」
「――エアリス隊長」
プラント、アプリリウス。
この国の中枢であるプラント最高評議会の議場に、ジークは立っていた。
円卓に座る評議員の視線が一斉にジークに注がれる。
「一刻を争う事態でしたので、破壊作業を優先させることが最善かと判断致しました」
ジークは淡々と今回の報告書を読み上げる。
報告を読み上げ終ると、議員達が低いため息を漏らす。
続けて、それぞれの卓上モニターに資料を切り替えるとその場が一斉にザワついた。
「まったく!話にならん!」
一人の議員が怒声をあげる。
「テロリストの即時引き渡し?すでに全員死亡していると、あちらも一度は了承したではないか!」
モニターに表示された連合からの要請文には、不当な要求が並んでいた。どれもプラントにとって容易に受け入れられるものではなかったが、文頭に添えられた一文が彼らの頭を悩ませた。
“以下の要求が受け入れられない場合、武力をもって排除するも辞さない”
「きっかけが欲しいだけなのだよ!彼らは!」
一人が机を叩く。
「連合の裏にいるのはブルーコスモスです。我らを“地球の敵”だと煽っているのでしょうよ!」
「月の戦力は無事。大西洋連邦とユーラシアも元気ですからな」
「しかし、これが本当になったら……」
「やると言ってるのは向こうだ!我らではない!」
熱くなる議員達の議論を、ジークは表情を変えることなく眺めていた。
「せめて、ひとつくらい拿捕出来なかったのかねぇ…」
一人の議員の言葉で、再び彼らの目がジークに集中した。
「数ヶ月前の内紛鎮圧でも、何も残らなかったでないか」
「あの時も、むしろこちらが批判されかねかなった」
「エアリス隊が加減を知らな過ぎるだけなのでは?やり過ぎなのだよ。いつもいつも…」
「原因は我らプラントでは無いと、証明できたかもしれないのに」
「奴らにいいきっかけを与えてしまった」
口々に投げ掛けられる理不尽な糾弾に、ジークの後ろで退屈そうにあくびをかみ殺していたグレイの眼の色が変わった。低く唸り声をあげた部下をジークは片手を挙げて制して、落ち着いた口調で弁明した。
「ずいぶん技量のあるパイロットだと感じました。我々もジュール隊のメテオブレイカーを守るのがやっとでしたので。拿捕などと、そんな易しいことは考えていられる状況ではありません」
「“漆黒の餓狼”もその程度か…」
円卓の中から誰かが小さく漏らした。
ジークは声の先に鋭い視線を向けた。
誰が付けたかも分からない異名に、何の意味がある?
ジークは、今までその名に縋ることも傲ることもしなかった。
戦場で一番ものをいうのは名ではない。敵を圧倒する力だ。
こうして円卓のなかで空論を述べている彼らには一生理解出来ないだろうと、ジークは心の中で舌打ちをした。
「みなさん、どうか落ち着いて頂きたい!」
ざわめく議会を中央で黙って聞いていた長髪の男が立ち上がった。
「誰が悪いなどと、そんな不毛な議論をしている場合ではない!私も“ミネルバ”で同行したが、実際彼らは良くやってくれていた。私は彼らの働きに感謝しています」
プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルは、柔らかな笑みをジークに投げかけた。
そして、周囲を見回し、ゆっくりと力強い口調で語りかける。
「我らまで乗ってしまったら、また先の大戦と同じです」
「ですが、すでに月基地では動きが見られます」
国防委員長が重々し気にデュランダルに指摘する。
「我々はあくまで、対話よる解決をしなければなりません。そうでなければ先の大戦の犠牲者も浮かばれない」
デュランダルの理性的な言葉に、一部の議員は歯痒そうに顔をしかめた。
誰もがデュランダルと同じで、戦争などしたくはない。だが、現に連合が言っている以上、そんな平和的にはやっていられない。最悪の場合、あのユニウスセブンの悲劇の再来だってあり得るのだ。
特に軍部の人間はこの緊張した情勢に危機感を募らせていた。
デュランダルは穏健派としてプラント国民から高い支持を得ているが、こうした軍部の強硬派の中には彼をよく思わない者も少なく無かった。
「もし…」
ジークが重い口をゆっくり開いた。
「もし仮に、プラントが再び危機に晒される時があれば…その時は、今度こそ我々にチャンスを頂きたい」
黒い瞳は真っ直ぐ前を見据え、自信に満ちていた。
「皆様が危惧する“血のバレンタイン”の再来は、エアリス隊が阻止します」
敬礼をして高らかに叫ぶ。
もう何度も吐き出してきた“忠誠”だ。

「ザフトの為に!」