眼下に広がる景色は、世界の混乱とは無縁の世界だった。
ジークは大きな窓に寄りかかって、行き交う人の波を眺めていた。
身を着飾って楽しそう歩く若者たち。この中にユニウスセブンの事件を想い胸を痛めた人間は、どれくらい居るのだろうか。
被害を受けていないプラントにとっては、ユニウスセブンの落下などただの対岸の火事なのかもしれない。事実この国の代表達でさえ、口先だけの遺憾の言葉を一言発するだけで、あとは地球への憤りを吐き出すだけだった。
ジークは諦めのようなため息をついた。
「悪かったね、ジーク」
窓際に置かれたソファに座っていたデュランダルが言った。
隣には、その顔にまだあどけなさを残した少女が座っていた。テーブルに置かれたチェス盤に興味があるようで、クリスタルで造られた駒を嬉しそうに眺めている。
長い髪の色はピンク。
かつて国民に慕われた歌姫によく似ていた。
「我々も混乱しているんだ。アーモリーワンの一件から立て続けに起こってしまったからね…」
「いえ、慣れていますから」
あの場で、ジークに向けられた視線は猜疑心が含まれていた。
いつものことだ。“真実”を知る者は皆、疑心や恐怖、侮蔑を含んだ眼でジークを見るのだ。
今更それを嘆くような弱さを、ジークは持ち合せていなかった。
「君は、今後をどう見ている?」
デュランダルが尋ねる。
「正直、国防委員長の言うとおり、このままでは開戦は避けられないかと」
「君までそう言うのか…」
「避けたいんだがな」と物憂そうに呟いた彼を横目に、ジークは窓の外に視線を戻す。
プラントの空が少しずつ光度を落としていた。もうすぐ雨の時間だった。
「…そろそろ、失礼します」
ジークはデュランダルに敬礼をして、執務室の扉へと向かった。
「ジーク」
ノブに手を掛けた時、デュランダルが呼び止める。
振り返ると彼は議会で見せたのと同じ、あの柔らかな笑みを浮かべていた。
「君には期待しているよ」
隣に座る少女はその言葉の意味を分からなかったようで、不思議そうに首を傾げた。
ジークは無言で頷いて、部屋を後にした。