《全軍!回避ッー!》
ジュール隊隊長イザーク・ジュールの割れんばかりの声がザフト機のコックピットに響いた直後、フィーネの目の前に閃光が拡がった。
《フィーネ!》
あ然として動きを止めた“ワルキューレ”の前に、“フェンリル”が滑り込む。モビルスーツ1機包むだけのシールドを展開させたところで、迫りくる光を防げるとは到底思えなかった。
宙域の艦隊全てを包み込むほどの大きさのそれに、その場にいた全員の脳裏に死という言葉が過ぎった次の瞬間、その巨大な光は予想外のルートを辿った。
「な…に…?」
艦隊の横をすり抜けた光条が円筒型のコロニーに吸い込まれ、直ぐに後方から吐き出される。
《曲がった?》
ジークの声にも困惑が混じる。
直進しか出来ないはずのビームがコロニーを中継点にして軌跡を変えたのだ。
「まさか…!」
その場にいたザフト兵の誰もが自らの眼を疑い、そして息を詰めた。
曲がったビームの行き着く先には、百数十基に及ぶ巨大なコロニー群。太陽光を受けて輝く銀色の砂時計は、彼らの祖国プラントだ。
「駄目…だめよ、そっちは…」
フィーネは弱々しく呟く。
「行っちゃだめ…!」
直後、懇願虚しく光は弾けた。
ビームが最初の一基を貫いてからは一瞬だった。
そのまま隣のプラントをやすやすと切り裂き、そして次へ…真っ二つに切り離されたプラントが虚空に放り出されたかと思えば、直撃を免れたプラントへと衝突した。
なす術なくそれを見届けた兵士達の阿鼻叫喚が虚空に響く。
プラントを守れなかった。
その事実を脳が認識した途端、エアリス隊の隊員達をズシンと禍々しいプレッシャーが襲った。
プラントを守る為に造られた“ヴァルハラ製”の機能だ。
「ひッ…」
痛みの程度に“純正”との差はあれど、“サードパーティ”として調整を受けたフィーネの身体も例外では無かった。
フィーネは小さく悲鳴を上げて身体を折り曲げる。
「なに、これ…?痛…」
はじめての感覚に困惑する。
――痛い、気持ち悪い…
身体中に言い表せない不快感が膨張するが、吐き出し方が分からない。
激しく咳込み喘ぎながら、フィーネは一人の男の顔を思い浮かべた。
血色の悪い白い顔、薄い唇が不敵に釣り上がる。その男の愉悦に満ちた高笑いは、フィーネの脳にしっかりと刷り込まれていた。
「ジブリール…!」
震える手をモニターに伸ばす。
指の隙間から見える、砕け散ったプラントの残骸が輝きを放ちながら底のない闇に広がっていくさま…
あまりにも虚しく美しい輝きは、いずれ訪れる己の未来に思えた。
なんと素晴らしい景色か。
憎き砂時計でも、こうして散っていく姿は美しくも思える。
ジブリールは歪んだ笑いを青白い頬に浮かべて、モニターに映し出された惨劇を見つめた。
だが、勝利を確信していたジブリールの感慨に水をさすようにオペレーターが告げた。
「――ヤヌアリウスワンからフォー、直撃」
「“ヤヌアリウス”だと?」
途端にジブリールの顔から笑みが消える。
照準は“アプリリウス”に合わせたはずだ。
一体どういうことかと、隣に控えた司令官も愕然とした様子で担当官に説明を促した。
「恐らく戦闘の影響かと思われます。最終中継点の射角が計算外にずれたようで…」
最終中継点であるコロニー“グノー”が、予定より早くザフトに見つかってしまったのが悪かったのだという。攻撃を受けたことによって、射角の調整が間に合わなかったのだ。
ジブリールは歯噛みする。
「首都を討ち損じるとは…!」
この一撃で首都を討ち落とし、この戦争を終わらせるつもりだったというのに。
「直ぐに再チャージ急げ!」
司令官が声をあげる。
“レクイエム”は、ビームを偏向させる“ゲシュマイディッヒ・パンツァー”を装備した5つの中継点を介して、自在にビームの操ることが出来るシステムだ。凄まじい威力を持つ分、膨大な電力を必要とするためチャージには時間を有する。
手の内を知られては、2射目の準備が整うまでに彼等も反撃に出てくるだろう。
ジブリールは悔しげに顔を歪め、慌ただしく指示が飛び交うオペレーションルームを見下ろした。
失敗に終わった第一射は、これから始まる熾烈な戦争の狼煙となった。