「——フェンリルとガルムが?」
ミネルバのパイロットアラート。レイが語る今回の作戦内容に耳を傾けていたシンは、合流予定だという友軍機の名前に眉を上げた。
「ああ、今ごろ急いでこちらに向かっているはずだ」
レイは端然として頷く。
「なんで、わざわざ裏側から…」
「さあな…司令部の意図まではこの命令書には書いていない。何にせよ、あの2人の参戦は心強いな」
気まずそうに視線を泳がせたシンを前に、レイは人知れず瞳を細めた。
シンは、今こちらに向かっている“フェンリル”のパイロット―ジーク・エアリスに負い目を感じるのだろう。
連合の強化人間“ステラ”の一件から、シンはジークとの信頼を深めていた。シンが守ろうとしたステラと、ジークが異例の待遇で自身の部隊へ連れ帰った連合の兵士フィーネ。彼らは守りたかった少女を傷付けたロード・ジブリールに対して激しい憎悪を抱えていた。
オーブでジブリールを取り逃がしたシンは、この作戦でジークに尻拭いをさせるようで嫌なのだ。
だが、これで良かった。レイは命令書に視線を落とす。
ジークをこちらへ向かわせたのは、彼の飼い主―ギルバート・デュランダルだ。
今回の采配は、恐らく最近“鞭”続きだった飼い犬への“飴”のつもりだろう。ロード・ジブリールという絶好の獲物を与えることで、飼い犬のなかに溜まったフラストレーションを僅かでも発散させようというのだ。もっとも、この程度で飼い犬の牙が鈍ることなどありはしないだろうが。
——シンには悪いが、今日は俺たちがサポート役だ
シンの複雑な胸中を慮りながら、レイはエレベーターへ向かう。
他の2人が後ろに続くことはなかった。釈然としない様子のシンをルナマリアが心配げに窺っている。シンを支えるように触れていた彼女の手にギュッと力が入ったのを視界の隅で捉えながら、レイはエレベーターの開閉ボタンを指先で押し込んだ。
次々と進路を阻む敵モビルアーマーを前に、フィーネは苛立ったように舌打ちをした。
「ほんと、数だけは多い!」
打っても打ってもキリがない。
モビルアーマーの甲羅を背負ったようなそのデザインも、フィーネの後頭部をチリチリと不快にさせた。昔からこの類の生物は苦手だった。
「かわいくないわね、君たち…」
古巣への悪態をつきながら、フィーネは目の前にある戦艦に向けて背面の遠隔式ビーム砲“レイヴン”を解放した。
四方に飛散したビーム砲が次々と戦艦を貫き、穴の空いたダークグレイの装甲から激しい炎が吹き出した。
「いい子ね、ワルキューレ」
ほら、私だってこんなに出来る。
フィーネは、この場に居ない恋人の傲慢な顔を思い浮かべた。
想定よりずっとはやくこの仕事を切り上げて、あの傲慢で独りよがりな男の還りを迎えてやろう。こんなに強くなった私をおいて行ったことを惜しめばいい。
「ん…違うな」
フィーネは小さく首を振りすぐにその考えを改めた。自分のなかでさえ、生意気な言葉しか出てこないのは悪い癖だ。
「素直じゃないのも、可愛くないわよ…“フィーネ”」
もういいのだと、あと何度彼を抱き締めてやれば伝わるだろうか。
君のせいではない。君がひとりで背負う必要はないのだと、あの哀しい眼をした男に語りかけても、頑なな心の真髄にまでは響かない。
だからこそ、今ここでフィーネができることはひとつしかなかった。
せめて、彼が“家族”のなかでは笑っていられるように。彼の居場所だけは守ってやろう。
たとえそれが、どれほど無意味で滑稽なことであっても…
次の戦艦に狙いを定めワルキューレを急迫させたとき、フィーネは背後から重苦しい感触が迫ってくるのを感じて思わず息を詰めた。
敵艦を捉えていた視界が一瞬フラッシュを浴びたように真白になる。
ハッとして双璧を瞬かせると、標準を合わせていた目の前の戦艦は既に激しく閃光を吹き上げている。
「アーシェ!」
自分の頭上を同型機が通り過ぎていく。
「それ、私の獲物よ!」
彼女の抗議の声にも応えず、アーシェのワルキューレはすぐさま新たな敵機に照準を合わせていた。
瞬間、フィーネの頭に妙な違和感が過る。
次々と敵機を撃ち落としていくアーシェの動きには迷いがなかった。まるで戦場という舞台の上で踊るように軽々と機体を操る彼女に、いつものような気遣いや遠慮は見られない。
無言のまま引き金を引き続ける彼女の姿に、何か得体の知れないものを感じた。
「——アーシェ?」