次々と帰還するモビルスーツに、ゴンドワナの格納庫では怒声のような声が飛び交う。整備士や医療班が慌ただしく行き交う様を横目に、イザークは重い足をロッカールームへと進める。開いた扉の向こうにいた先客に気付くと、一瞬だけ背筋がひやりとしたの感じた。
「お疲れ」
ジークが労いの言葉をかける。
「良かったな。お互い無事で」
「そうだな」
「少し焦ったけどな」
イザークは、ロッカーから軍服を取り出して「あれは?」と尋ねた。
「あの装置はなんだ」
核ミサイルを宙域の敵機ごと一掃した装置。
「“Nスタンピーダー”、外部から任意に核を暴発させる装置だ」
「あんなのが配備されるなど、聞いてないぞ」
「万一に備えて特殊部隊案件だった。使うような状況にはならないで欲しかったんだがな」
結局、また連合は核を使ってプラントを狙った。その現実を憂うように、イザークは目を伏せた。
「なぜまたこんな事に…」
先の大戦であれほど多くの命が散ったというのに、尚も戦争を続けようというのか。
散っていったかつての仲間を思い浮かべて、イザークはやり場の無い怒りに拳を震わせる。
「奴らは本気だ」
ジークが低く言葉を発した。
「見ただろ?初めからプラントを狙うことに躊躇がない奴らだ。こちらも本気で向かわなければ、次は無い」
彼の真剣な目に射抜かれて、イザークは一瞬たじろぐ。
「やらなきゃ守れない」
その言葉は、彼自身に言い聞かせているようだった。
彼の事情は分からないが、イザークもその想いは同じだ。
「俺は…」
イザークは改めて気持ちを奮い立たせる。
「モビルスーツに乗ることしか出来ない。出来ないからここにいるんだ。やるしかないことくらい分かっている」
今でこそ先の大戦の英雄と称されるイザークは、本来であれば軍法会議で処分される立場だった。それを生かしてくれたプラントに、尽くさなければならない。
「清々しいほど真っ直ぐな奴だな、イザークは」
嫌いじゃない、とジークは笑った。
突然ファーストネームで呼ばれて、イザークは目を丸くした。
「なぜ急に名前呼び…」
眉を寄せたイザークに対して、ジークはキョトンした様子でいう。
「だって、同い年だろ?俺ら」
仲良くしようぜ、と笑う彼にイザークは不思議な感情を覚える。
元プラント評議員でザフトの名将、ヴァン・エアリスの息子。
先の大戦では、カオシュン宇宙港陥落の立役者としてネビュラ勲章を受賞。特殊部隊の隊長として停戦まで数々の戦果をあげ、その圧倒的な力で敵を狩る姿は飢えた狼に例えられた。
軍人として輝かしい経歴を持つ彼には、噂話の域を出ない黒い話も多い。確かに先ほどの彼の戦いぶりには友軍から見ても恐れを感じるほどだったが、いま目の前にいる男は“餓狼”と呼ぶには似つかない、社交的で気さくな青年だった。
「…その目」
彼の右目を指して、イザークは口を開いた。
こめかみから目の下にかけてついた傷跡に、イザークは過去の自分を重ねた。
「何かの願掛けか?」
プラントの医療技術をもってすれば、その程度の傷跡は消せるだろう。軍人がそれを敢えて残すというのは、何か特別な想いがある時だ。
かつてイザークも敵に復讐を誓い、傷を残して戦った。その執着から解放された停戦後、イザークは傷を消していた。
「これか?」
ジークは少し考えこんで、「ああ」と思い出した様に笑った。
「猫に」
「…ネコ、だとぉ?」
予想外の答えに、イザークは面食らって間の抜けた声をあげた。
ジークは遠い昔を懐かしむように続けた。
「気が強いんだ。なかなか…懐いてくれなくてな」