ザフトの本部基地、指定された時間にカフェテリアに行くと、そこにはエアリス隊の秘書官が待っていた。
着いてくるようにと言ったクロエに従って、行き着いた先はエアリス隊の母艦“ディオニソス“。
艦内の廊下を歩きながら、アーシェはおずおずとクロエの背中に言葉をかけた。
「あの…エアリス隊は休暇なのでは?」
「ええ、休暇でした。貴女がうちの隊長に変なことを言い出すまではね」
「…すみません」
冷ややかな口調で返されて、アーシェは身を縮めた。
「部下でもない貴女と、休暇中に2人きりっていうのは良くないでしょう?」
「…はい。すみません」
間に流れる空気に気まずさを感じているうちに、2人は目的の部屋の前に着いた。
クロエは部屋のインターフォンを押して名乗る。開いたドアの向こうで、いつもの指揮官服に着替えたジークが待っていた。
「休暇中に申し訳ありませんでした」
隊長室のソファに座りまずは謝罪した。
「その…お邪魔を、してしまったみたいで…」
「気にしなくていい。もともとオペラとか、そういった芸術の類が苦手だったから」
「ちょうど良かった」と、ジークは笑ってみせた。
「もともと本業の方の接待だからな」
「ご実家は貿易関係でしたか」
「お、よく知ってるな」
義勇軍であるザフトの兵士は志願制。平時はそれぞれ別の本職に就いている。
アーシェはディセンベルのカレッジで政治学を学ぶ学生だが、今は休学扱いとしている。
目の前の彼は、プラントでも有数の名家―エアリス家の跡取りだ。
「エアリスと言えば、有名ですから」
「そうは言ってもこの情勢だ。地球に向けた事業は軒並み不調でな。俺もこっちの任務でちゃんとみていられないし、昔ほどの勢いはないさ」
ジークはそう言って肩をすくめた。
「さっきのは、得意先のご令嬢なんだ。一度会って欲しいとしつこいから付き合ったまでだ。婚姻統制が推奨されてるこのご時世に、こんな不毛なことよくやる…」
辟易した様子で吐き捨てた。
彼が言った“不毛”という言葉。
それは、アーシェ達第2世代のコーディネーターが、次の世代をもう自然には産み出せないことを意味していた。
遺伝子操作の弊害で出生率の低下が社会問題となるプラントでは、遺伝子が適合する者同士の婚姻統制を取っている。
アーシェは昼間会った彼女のことを思い出した。
多分向こうは、例え“不毛”でも乗り気だっただろうに…
子どもを授かれなくても一緒に居たいという恋人達は沢山居る。人の心を無視した遺伝子優位のプラントのやり方を、アーシェは肯定的にはみれなかった。