「珍しいな、君からお願い事とは」
ギルバート・デュランダルは機嫌の良い笑みを浮かべて、デスクの上の両手を組んだ。
「過日のプラント防衛では流石の議員たちも絶賛だったよ。君の働きに何か報いたいんだが、今更勲章で喜ぶ君ではないだろう?君から希望があるなら、私も出来るだけ応えてやりたい」
「恐縮です」
ジークは敬礼をすると、1枚のディスクをデュランダルに差し出す。
中のデータをデスクトップに表示すると、デュランダルは目を見張って感嘆の声を漏らした。
「プラント経済界の雄は、こんな物を眠らせていたのか…」
興味深そうに“フリッグ”のデータを確認していく。
「実は…パイロットの増員を許可して頂きたく、お願いに上がりました」
「この機体のかい?」
ジークは頷いて、デスクトップの画面を切り替える。
ザフトの所属兵のデータだ。
そこに映し出された水色の髪の少女のパーソナルデータを、デュランダルは穏やかな声で読み上げた。
「アーシェ・ヘインズ。マイウス市出身、C.E56-7月21日生まれ。所属、ジュール隊…」
デュランダルは目を丸くする。
「秘書官じゃないか」
大丈夫なのか?と眉間に皺を寄せた。
ジークは再び大きく頷いた。
「もともと士官学校ではパイロット候補生です。最終試験前にパニック障害を発症して秘書官に転向していますが、それまでの総合成績は1位です」
「それでも、いきなり特殊部隊は…」
「現在障害は完治。本人もパイロットに戻る意向があります。ブランクはありますが、この基礎能力ならうちで鍛えて直ぐにものに出来ます」
ジークはさらに続けた。毅然としたその表情は、彼の確固たる自信が伺える。
「それに、この機体は彼女でなければ動きません。ここまで能力のある機体と人材を眠らせておくのは、この戦況のなか勿体ないかと」
デュランダルが難しい表情で唸る。
「確かに…能力のある者を眠らせておくのは惜しい。与えられた役割は果たさねばな…」
「はい」
少し考え込んだデュランダルだったが、ジークの真剣な目に見つめられて観念したように「分かった」と息をついた。
「滅多に無い君の頼みだ。円滑に異動を進められるよう、私の方から手配しておくよ」
その言葉に、ジークは敬礼をして感謝の言葉を口にした。
そうだ、思い出した。
ジークが退出した執務室。デュランダルは彼から受け取ったデータを眺めながら、遠い昔に想いを馳せた。
「ヘインズの…まさか自分からザフトに入っているとはな」
デスクトップに映る水色の髪の少女を通して、彼はある幼子を思い浮かべていた。
自分を不安そうに見上げた少女の、あの零れそうな大きな瞳。左右の色が異なるそれは、神秘的で美しいと思ったのを覚えている。
懐かしむように目を細めて微笑んだ。
「どこに行ってしまったんだろうね、“彼女”は…」