ザフトのモビルスーツ演習基地。分厚い防護ガラスの向こうで繰り広げる白兵戦に、エルヴィンは身を乗り出して歓声をあげた。
「すっげー!」
グレーの瞳を輝かせて隣のジークを見上げる。
「僕もあの銀色とやりたい!」
「イルが終わったらな」
ガラスの向こうでは、アーシェが乗る“フリッグ・スキャルブ”とイルミのザクが激しい戦闘を繰り広げている。
「初日はどうなるかと思ったが…2日でクロエに勝って、今日はこれか…」
ジークは手元のデータを見ながら「期待以上だ」と賞賛を呟いた。
背後でクロエがむくれる。
「初日のことがあったから、気を使ってあげただけです」
演習初日、アーシェは開始して数分で過呼吸を引き起こして気絶した。5年ぶりのモビルスーツは身体に負担が大きかったのだろう。
それでも、そこからの切り替えは早く、ジークも驚く程だった。
「あの機体…あんなに動けるもんなんだな」
グレイが目を見張った。
「ただの欠陥品かと思ってた」
誰が乗っても思うように動いてくれなかった銀色の機体は、水を得た魚の様に軽やかにザクのするどい攻撃をかわしていく。
「今まで未完成だったからな」
「あいつ、実戦経験は無いんだろ?それでこれは、末恐ろしいな…」
長年未完成だったそれは、5年の時を経て“アーシェ・ヘインズ”というパーツを得て完成する。
目の前で繰り広げられるモビルスーツの激しいぶつかり合いを眺めながら、ジーク達は新たな力への期待を膨らませていた。




容赦なくコックピットを狙って振り下ろされるザクのトマホークを交わして、相手の左脚に向けてトリガーを引く。
バランスを崩したタイミングで更に片方をビームサーベルで斬り落とすと、ザクは仰向けに倒れ込んだ。
すかさず胴にフリッグの脚を乗せて動きを封じると、鈍い音を響かせてコックピットハッチが歪んだ。
銃口をコックピットに当てる。
荒い呼吸。
赤い唇に狂喜が滲む

――ああ、これって…

アーシェは、湧き上がる感情の名前を思い出していた。
トリガーにかけた指が小さく震えた。
《――おい!アーシェ!!》
ジークの怒声に、アーシェはハッと我にかえる。
《終了だって言ってるだろ!この、バカ!》
防護ガラスの向こうの管制室から、ジークが焦ったような険しい表情でこちらを見ていた。
視線を落とすと、フリッグの下にイルミのザク…
アーシェは慌ててフリッグの脚を退けた。
《アーシェ…嫌い》
ザクと回線を繋げると、モニターに映った琥珀色の瞳が涙を浮かべてこちらを睨んでいた。
倒れたザクの歪んだコックピットが辛うじて開くと、管制室から飛び出して来たジークがイルミを抱き上げる。
彼は「今日はもう上がれ!」とフリッグに向かって叫び、イルミを抱えて足早に演習場を出て行った。
彼の白い背中が見えなくなると、アーシェはフッと全身の力を抜いてシートにもたれ掛かる。
心臓が胸を突き破りそうなほど激しく拍動を続ける。
「こんなの、久しぶり…」
蒸気した頬に伝う汗を拭って、同じく喜びに沸き立つ“本体”に語りかけた。

「…たのしかったね。フリッグ」