「結局教えないのな、お前」
“フェンリル”のコックピットを覗き込んで、グレイが呆れ声をあげた。
コックピットの中で整備データをチェックしていたジークは、顔を上げずに「なにが?」と返す。
素知らぬ顔のジークに、グレイは眉間の皺を深めた。彼が自分の質問の意図を理解していることなど、明白なのだ。
「“スペア”の存在」
「聞かれたのは、“俺達が何者か”だからな」
「屁理屈言っちゃって…」
「言ったら何か変わるのか?」
「変わらなくても、知る権利はあるだろ。“オリジナル”なんだから」
「むやみに背負わせてどうする。アーシェのあの性格なら自分を責めるぞ」
自分ではどうにも出来ない出自で、罪悪感を負うのは酷だ。
「5年の間に形成された優しい人格も、あいつ自身だ。ただでさえそのギャップに苦しんでるのに、これ以上思い詰めて戦えなくなったら困る」
「お前…」
グレイは少し驚いたようにジークを凝視した。
「あいつに情でも移したか?」
ジークは「まさか」と鼻で笑い飛ばしてみせた。
「やめとけよ。いくら同じだからってな…」
「パイロットとして期待しているだけだ。お前らの性能を活かすのが、俺の務めだろ」
戦う為に造られたジーク達は、戦果をあげて国に存在意義を示さなければ生きられない。不要だと判断された時点で“廃棄”だ。
彼等に戦う場を与え続けることが、ジークが考える仲間を守るための手段だった。
ひと通りのチェックを終えたジークは、首を左右に傾けて骨を鳴らした。
グレイはまだ物言いたげだった。
「…それにな、グレイ。知ってるか?」
「なにを?」
「狼って生き物は、番いの雌に生涯一途なんだとよ」
「ふーん、“一途”、ねぇ…」
グレイは訝しげな視線をジークに向けた。
「…俺、狼の“お友達”の女の名前、少なくとも2人は言えるんだけど?」
ジークの眉が一瞬ピクリと動いた。グレイはフフンと得意顔でその“一途な狼”を見下した。
だが、2人の立場は直ぐに逆転する。
ジークはいたずらっぽく口の端を上げて言い返した。
「俺も、お前がこの間の“コペルニクス”で俺が手配してやったホテルに誰を招いたか、知ってるけどな」 
ジークの予想外の反撃に、グレイの顔が怯んだ。
「お前は相変わらず金髪の女に弱いのな」
途端に慌てふためいたグレイは、あたりをキョロキョロと見回して口を尖らせる。
「…クロエには、内緒だぞ」
グレイの反応をひと通り楽しんだジークは、フッと吹き出すように笑った。
貼り付けた笑みとは違う、ごく自然に笑う姿は生まれたときから一緒にいるグレイの前だからこそ見せる年相応の姿だった。
まだ物言いたげな表情を浮かべていたグレイも、ジークのその顔につられて頬を緩めた。
「――しばらく此処を離れる。留守の間、任せたぞ」
「りょーかい、隊長」