「ミネルバ…ですか?」
少し戸惑ったようなアーシェの口調に、ジークは眉を寄せた。
「何か問題でもあるか?」
ジークから手渡された命令書を捲り、考え込む。
「ミネルバには同期が配属されてて…」
「気まずい、と?」
アーシェは苦い顔をして頷く。
ジークは呆れたようにため息をついた。
「同じザフトだ。いつかは一緒に戦うことになっただろう。何を今更」
ジークはデスクトップにザフトの新型艦“ミネルバ”のデータを表示した。
「これは、随分と議長のお気に入りでな。経験が少ない若い隊員ばかりだから、期間限定でお手伝いしてこいっていうのが今回の命令だ」
“ミネルバ”の名簿によく知る名前を見つけて、アーシェは懐かしさを覚えた。
士官学校での仲間は、自分が途中でパイロットを諦めたことを心配してフォローしてくれた。今、再びパイロットとして出戻った自分を彼らはどう思うだろう…
アーシェは弱気になりそうな自分を振り払うように、頭を左右に振った。
「お前にとっても良い経験になると思うぞ。ミネルバは期待されている分、割り当てられる任務も花形だ」
「戦争の内容に花形とかあります?」
アーシェは不快感を露わにした。
「こちら側がやっている事の正当性を示すには、ある程度の演出も必要なんだよ」
ジークは興味無さそうに答える。
「それに、フリッグは喜ぶだろ?派手な戦場」
「まぁ、そうでしょうけど」
「出発は明日だ。それまでに、あの“女神様”のご機嫌取りしとけ」
フリッグのデータが入ったチェックボードをアーシェに投げて笑う。
「整備士が泣いてたぞ。扱いづらいって」
アーシェはそれを見て大きくため息をついた。
待ち望んだ実戦への期待と、かつての同期に会うことへの不安。複雑に乱れる心に、任務に就く前から疲労が溜まっていく気がした。




「エアリス隊、アーシェ・ヘインズです!」
自分に向かって敬礼した少女に、デュランダルは感慨を覚えた。自分を映したブルーの双眼に、微笑みかける。
「そうか、君がヘインズか…」
「うちの期待の新人です」
ジークが言う。
「ジークがあれほど推すパイロットとはどんなものかと思っていたが、想像以上にずっと素敵な女性で驚いた。これから頑張ってくれ」
国のトップから向けられた期待の眼差しに、アーシェは胸が熱くなるのを感じて大きく頷いた。
「それで、議長…」
ジークはデュランダルの後ろに控えた青年に視線をやる。
「彼は?」
見覚えのあるインディゴブルーの髪の青年…ジークが覚えのある人物なら、今プラントには居ないはずであった。
「申し遅れました、アスラン・ザラです」
ジークに向かって敬礼した彼の赤い軍服の胸には特務隊“FAITH”のバッジが光る。戦績、人格ともに議長に認められたザフトのトップエリートの証だ。
「アスラン・ザラ…」
先の大戦でネビュラ勲章受賞、特務隊“FAITH”配属と、兵士として輝かしい栄誉を手に入れたにも関わらず、突如ザフトを抜け、伝説の戦艦“アークエンジェル”と共に停戦の立役者となった英雄。
今は地球の中立国に亡命したと、噂で聞いていた。
「彼にも“ミネルバ”についてもらう」
「彼も一緒に?」
眉に皺を寄せたジークに、デュランダルは「そうだ」と頷いた。
「彼も同行するなら、うちの隊から2人も派遣するのは多すぎるのでは?フェイスを集め過ぎるのは、現場が混乱します」
FAITHは通常の指揮官より上位の権限を持つ。アスランと特殊部隊の隊長で同じくFAITHのジーク、さらに“ミネルバ”の艦長が合流するのは、任務を遂行するうえで支障になる。
「アスランはザフトに戻ったばかりで慣れないことも多い。少しの間、君の力を貸して欲しいんだ。頃合いを見て君にはエアリス隊に戻れるようにするよ」
デュランダルは諭すようにゆっくりとした口調で言った。
穏やかだが有無を言わせないデュランダルの瞳に、ジークは渋々頷いてみせた。ジークは彼の命令に背くことは出来ない立場だ。
アスランに向き直ると、敬礼する。
「失礼した。ジーク・エアリスだ」
アスランも慌てたように敬礼を返す。
「お父上には昔から大変世話になった。君の評判もよく聞いてる。会えて嬉しいよ」
「こちらこそ、エアリス隊長とご一緒出来て光栄です」
握手を交わすトップエリートの姿を、デュランダルは満足気に眺めていた。
「あの艦…ミネルバに、私は期待しているんだ。先の大戦の“アークエンジェル”のような役割を果たしてくれるのではないかとね。その為にも、君達の力に期待している」
「頼んだ」と力強く投げかけられた言葉に、3人は姿勢を正して敬礼をした。
「はっ!ザフトの為に!」