#11
雨粒が窓を打つ音で目が覚めた。
「参ったな。だいぶ強くなってきた」
そう呟いて着替えるジブリールを、フィーネは視界の隅で捉えて小さくあくびをかみ殺した。
シーツに包まったままの身体はまだ怠く、起き上がる気力が沸かなかった。
ジブリールは、これからブルーコスモスの幹部との会合があるらしい。寝室の内線を秘書に繋げて、「10分後に出る」と指示を出す。
「雨、いつ止むの?」
フィーネは尋ねた。
「昼過ぎには止む予報だったがね。この調子ならどうなるのか…」
曖昧な答えにフィーネは少し不満そうに窓の外を見る。大きな窓の外に広がる庭園の庭木が、風で大きく揺れていた。
フィーネは前にも誰かに雨の止む時間を尋ねたことがある。その人は断言するように、雨の止む時間を答えていた。
雨がいつ止むかなんて、予報でしかないのに…
ぼんやりと靄のかかった不思議な記憶に、また小さな痛みが頭の中を掠めた。
「フィーネも昼過ぎには出発だろう?」
「うん。その頃には止むといいな…」
ジブリールはベッド端に座ると、フィーネの髪を愛おしそうに撫でた。
「お前の働きには期待しているよ」
淡いブルーの髪に唇を寄せると、彼女は小さく頷く。
「最近、頭痛がするって言ってたな」
「うん」
「これからは定期的にメンテナンスを受けなさい。何かあったら私が心配だ。ただでさえお前の身体は“不完全”なのだから」
“不完全”
ジブリールはいつもそう言って、フィーネの身体を気にかけた。怒らせると怖いが、普段の彼はこうして優しく自分を撫でてくれるのだ。自分が“悪いこと”さえしなければ、彼は優しい良い人だ。
行き場を失った幼い自分を拾ってくれた人。
戦う場を与えてくれる人。
どんなに地位のある地球連合の幹部でもフィーネを従わせることは出来ない。私兵である彼女の絶対的支配者は、目の前にいるジブリールただ一人だった。
「気を付けなさい。遠くに行ってはいけないよ」
髪を撫でていた手が頬へと移動した。
「こうして、誰かに触れさせるのも駄目だ」
「しないよ。今までだって、これからも…」
フィーネは笑う。一瞬ジブリールの表情が陰ったのを、まだ眠たげなフィーネは気付かなかった。
ジブリールは、彼女の瞼にそっとキスを落として「楽しんでおいで」と笑った。