ミネルバ艦長、タリア・グラディスは険しい表情でデュランダルからの命令書を見つめていた。
しばらくしてから、大きなため息をついて自分のデスクの前に立つアスランに厳しい視線を向けた。
「貴方をフェイスに戻してこの艦に寄越し、私までフェイスに?何を考えているのかしらね議長も、貴方も…」
タリアの視線に、アスランはただ「申し訳ありません」と頭を下げることしか出来なかった。ザフトに出戻った自分に対する周囲の反応を、アスランは覚悟していたつもりだった。
「別に、私に謝られてもね」
「それより…」と怪訝そうに眉を顰めて、アスランの隣の2人男女を見る。そんな彼女の視線に男の方はただ笑顔で返してみせた。
タリアは直感で、アスランより厄介なのはこの男だと気付く。
「なぜ、エアリス隊から2人も配属されるの?しかも隊長自ら…私たちに貴方の下につけと仰るのかしら、議長は」
「まさか」と、ジークは肩をすくめてみせた。
「エアリス隊は一時的な“お手伝い”ですから。指揮はこれまで通り艦長にお任せします」
「そうは言ってもやり辛いわ」
「俺と俺の部下のことはお気になさらず。それに、俺も実力が“バラバラ”の大所帯を指揮するのは得意じゃないので」
その皮肉っぽい口調に、タリアの側に控えていた副長のアーサー・トラインが眉を寄せた。
タリアは小さく肩をすくめる。
「そう。まあ、なんであれ貴方達ほど有名な2人がいたら、若いパイロット達の良い刺激になるでしょう。ところで、この命令書の中身は見た?」
アスランとジークは、顔を見合わせて頷いた。
「はい。準備が整い次第、ミネルバはジブラルタルへ迎えと」
タリアは淡々と命令書を読み上げる。
「現在スエズ攻略を行っている駐留軍を支援せよ」
「ここからスエズの支援ですか!?」
副長が驚いて声をあげた。
「ユーラシア西側で紛争があって、ゴタゴタしているところね。何で私達が…」
タリアは命令書を睨む。
終始黙っていたアーシェは、その命令の意図に考えを巡らせていた。
現在居るここ、カーペンタリアからジブラルタルへの派遣は距離がある。増援は宇宙から降ろした方が早いはずだ。
わざわざミネルバがやらなければいけない任務では無いように思えた。
ふと、アーシェは地球に降下する前にジークが言っていた「花形の任務」という言葉を思い出す。
もしかしたら、こういうことを言うのかもしれない。
全く、戦争というのは単純なものではないらしい。“フリッグ”なら楽しければ何でもいいと言いそうだが…
そんなことを考えていると、アスランがきまりが悪そうに「すみません」と口を開いた。
「その、ユーラシアの紛争というのは…?」
「お前、ほんとに時事に疎いのな」
ジークがため息をついた。
「今、ユーラシアの一部の地域が大西洋連邦からの分離独立を主張して揉めているんです」
アーシェが控えめにアスランに伝える。
「つい最近だ。お前は自分の事でバタバタしてた頃だろうから、知らなくても仕方ないか」
タリアがデスクトップにニュース映像を映し出して見せた。
銃を持ったゲリラに対し、応戦する連合側はモビルスーツだった。
「こんなの、ただの虐殺よ」 
タリアが顔を歪めて言う。
「そこに介入しろ、っていうのが議長の命令だ。わざわざ、俺達が、な」
ジークがアスランの目を真っ直ぐ見据えて言った。
アスランはその意図を直ぐに理解して、表情を硬くして頷いた。
議長が言っていた「ミネルバへの期待」とは“そういうこと”なのだ。過剰とも思える戦力を集めた理由も、アスランは察することが出来た。
ひと通り必要な話を終えると、タリアは「さて」と椅子から立ち上がる。
「今後のことを考えると、戦力が増えるのは素直に心強いわ」
3人に柔らかな笑みを見せて言う。

「ようこそ。ミネルバへ」