「アーシェ!」
アスラン達と別れて、割り当てられた自室に向かう途中だった。
後ろから呼ばれて振り返ると、赤服の少女が満面の笑みで駆け寄って来て、アーシェに抱きついた。
変わらない友人の笑顔に、アーシェは胸に懐かしさと喜びが湧いてくるのを感じた。
「久しぶり、ルナ」
「もう、びっくりしたじゃない!」
ルナマリア・ホーク。
赤毛のショートヘアが快活な性格を伺わせる少女だ。士官学校時代から明るく面倒見の良かった彼女を、アーシェは同い年ながら姉のように頼りにしていた。
彼女の後ろに目をやると、シン・アスカが難しい表情を浮かべて立っていた。
「シンも、久しぶり」
シンは不貞腐れたように言う。
「どういうことだよ?急にパイロットって」
アーシェはどこまで説明すればいいものか迷い、「いろいろあって」と苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
そんなアーシェに、ルナマリアは紫色の瞳を穏やかに細めた。
「もう、身体は大丈夫なんだ?」
「うん。平気」
「アーシェはもともと成績優秀だったし、戦力が増えるのはいいことか。ね、シン」
「アカデミーと実戦は違うだろ」
シンはふんとそっぽを向いてしまった。
隣でルナマリアが「もう!」と呆れたように頬を膨らませた。
「久しぶりに会えたのに、その態度は何よ」
「いいよ。ルナ」
優しく迎え入れて貰えるとはもとより思っていなかった。
先程、ルナマリアに抱き締められて嬉しかったが、初めから甘やかされるだけでは自分が駄目になりそうな気がした。厳しく律してくれる人は必要だ。
アーシェは彼に歩み寄る。
「ごめんね。急に現れて偉ぶるつもりは全然無いの。むしろ私は見習いみたいなものだから、シン達を頼りにしてる」
穏やかな口調で語りかけた。
「でも、足手まといにならないってことだけは約束する。もう昔の私とは違うから。早くシン達に認められるように頑張るね」
彼女は変わった…
シンは思った。
ゆっくりとした穏やかな口調でも、彼女の顔には目的を果たすという意気があった。
士官学校で出会った彼女は、控えめで大人しい少女だった。成績優秀だが、軍属には向いていないのではないかと思っていた。
「これから、よろしくね」
何が彼女を変えたのかは分からない。
目の前の意志の強い瞳は、戦地に向かう兵士のそれだった。
柔らかな笑みで差し出された小さな手。
シンは戸惑いながら握り返して、頷いた。