#12

ロッカールームを出た先に待ち構えていた白衣の男達に、フィーネは顔を強張らせた。
ファントムペイン付きの研究員の彼らは、主にステラ達エクステンデッドの“メンテナンス”を担当している。今まで直接関わることは無かった彼らに取り囲まれて、胸が騒ついた。
フィーネは昔から白衣姿の男というのがどうにも苦手だった。
「なに?」
威嚇するように睨むフィーネに、男は怯むことなく小瓶を差し出した。
「“メンテナンス”を抜かりなく行えと、ジブリール氏からの指示ですから」
液状の薬が入ったそれを受け取って、一度躊躇するように男の顔を見た。
彼らは表情を変えることなくこちらを見つめる。有無を言わさないその目が「早く飲め」と言っていた。
フィーネはこの中身の正体を知っている。
「そういうことか…」
ジブリールの言葉を思い出して、フィーネは納得したように呟いた。
意を決したように、それを一気に喉に流し込んだ。
舌に残る苦味に顔を歪めて空になった茶色の小瓶を彼らに預けると、「これでいいんでしょ?」と吐き捨てる。
男達に背を向けてモビルスーツデッキに向かう足取りは、心なしか軽かった。
胸に湧き上がる多幸感に、ひとり笑う。
「これじゃあ、遠くに行けないな」
最初からどこかに行こうなんて考えたことないけれど…
これもきっと、“不完全”な自分の身体を補う為だ。
ジブリール邸を出る前、彼は随分と身体を心配してくれていたから。
これまで通り、ジブリールの言うことを聞いていれば何も不自由はない。
彼の側にいて、大好きな“戦争”をするだけ。今までと変わらない。
変わらないはずなのに…
多幸感の中に僅かにチリチリと疼く何かに、フィーネは小さく不安を吐露した。

「ちょっとだけ…こわい、な」