乾いた音が格納庫に響いた。
遅れて機体から降りたジークは、その場の緊張した空気に眉を寄せたが、格納庫の中央で睨み合うアスランとシンの姿に直ぐこの空気の原因を理解してやれやれと頭を掻いた。
「殴りたいのなら、別に構いませんけどね。俺は間違ったことはしてませんよ!」
シンが叫ぶ。
ジークは遠巻きに眺めていたアーシェの側に寄ると、「何だ?あれ」と状況を尋ねた。
「シンの命令違反です」
連合の兵士が民間人を撃ったのを目の当たりにして、それからシンは我を忘れて基地建設地を破壊した。
既に戦闘力を失った彼らに対して行ったその行為をアスランが咎めたのだ。
命令違反。シンとは違って指揮下に属さず好きに戦闘を楽しんでいたジーク達は、2人に口出し出来る立場ではなかった。
アーシェは心配そうに彼らを見つめる。
「あそこの人たちだって助かったんだ!」
シンがそう言ったと同時に、頬に二発目の衝撃が走る。
「戦争はヒーローごっこじゃない!」
アスランが声を荒げて言った。
ジークは他人事のようにそれを眺めて、アスランの険しい表情に感心していた。普段穏やかに見える彼もこんな風に怒るものなのかと。
「自分だけで勝手な判断をするな!力を持つ者ならそれを自覚しろ!」
そうして、アスランは格納庫を去っていく。
シンは不貞腐れたようにそっぽを向いていた。
一方的に責められて、彼としては納得のいかないことばかりだろう。
「まあ、アスランの言ったことは間違っていないな」
ジークが言う。
やはり、アスランに指揮を任せて良かった。
ジークは満足気だった。
シンのようなタイプはアスランの方が育てられるだろう。
「…エアリス隊長」
振り返ったシンは、気まずそうに俯いた。
ジークはシンの肩を軽く叩いて笑う。
「お前の気持ちも分からなくは無い。アスランだってそう思ってるさ」
難しいよな、とジークは肩を竦めた。シンはよく分からないまま首を傾げた。
「力を持つ者ならそれを自覚しろ、か…。端から反発するのもいいが、あいつが言ったその意味を少し考えてみたらどうだ?そうしたら、お前はもっと良いパイロットになれる」
「え?」
「たぶん、だがな」
そう笑って、ジークは「お疲れ」とその場を後にした。
シンは混乱したようにその後ろ姿をただ見送る事しか出来なかった。
冷たいシャワーに打たれながら、ジークは黙考していた。
先程の戦闘で見たフィーネの顔が頭から離れない。
あの余裕の無さは何だ…?
自分を認識しないその眼は血走っていた。
大きく開いた瞳孔。
浅い息づかい。
これまで何度も交戦してきた彼女の初めて見る顔だった。
兵士に対する記憶操作と洗脳は、昔から連合のお家芸だ。
最後に別れたあの日、ジークは彼女との関係がまた振り出しに戻ることを覚悟していた。それでも、何度だって思い出させる自信を持っていた。
なのに…
自分はどこかで選択を間違えたのではないか…
湧き上がる不安に、ジークは目の前の壁を拳で強く殴った。
仲間の名を叫んで意識を手放した彼女の顔。
海へ落ちていく白いモビルスーツ。
あの時、彼女は海に落ちる前に“カオス”が機体を回収してくれることを分かっているようだった。
極限の状態になった時に彼女が唯一頼った“カオス”のパイロットに、ジークは嫉妬のような感情を覚えて顔を歪めた
やっぱり、細脚をへし折ってでもプラントに繋ぎ止めておくんだった…
過激な考えが頭を過ぎる。
「次がある」と、何故思い上がってしまったのか。
再び開戦すれば、今度こそ彼女を繋いでいる鎖を引き千切る事が出来ると、あと少しの辛抱だと、悠長に時間をかけてしまったのが間違いだったのかもしれない。
彼女の鎖の先にいる人物を思い浮かべたジークは、憎悪を込めて呟いた。
「早く、殺さなきゃな」