規則的な音を奏でる計器を見つめ、スティングは眉を寄せた。その音は目の前で静かに眠る彼女が生きているという証。
あの戦いから数日、フィーネはずっとこの白い無機質な部屋で過ごしていた。
戦闘中に意識を失った彼女を連れて帰艦した時、ネオも研究員達も慌てる様子なく淡々と彼女を連れていった。まるでこうなる事を想定していたような対応に、スティングは違和感を覚えた。
ネオを問い質せば、彼は「なんてことない。メンテナンスだ」と、冷静な口調で言った。
彼女は戦闘用コーディネーターだ。自分達のように、定期的な“メンテナンス”なんて無くても強くいられる。
なのに、何故急に“メンテナス”を行う必要があるのだろう。
言い様の無い不安に襲われて、スティングは顔を歪めた。
コーディネーターは嫌いだ。昔から。
だが、彼女は違う。
初めこそコーディネーターと一緒に戦うなどあり得ないと思っていたが、彼女は優しかった。それでいて、戦争も強い。
人嫌いの激しいステラもアウルもフィーネには直ぐに懐いた。面倒見がよく、自分たちを仲間として大切にしてくれた彼女。
なのに自分は、彼女の事を何も知らない。
何処で生まれて、どんな所で育って、今なぜ同胞であるはずのコーディネーターを相手に戦っているのか。何も、知らなかった。
この細い身体で抱えているものは、きっと自分では計り知れないほど大きいのかもしれない。
それでも知りたい…
白い頬にそっと触れてみる。
僅かに感じる彼女の体温にホッとした。
誰かにそんな感情を抱くのは初めてだった。
戦うことが自分の存在意義。それ以外はどうでもいい。
今までそうして生きてきたスティングは、初めこそこの感情に戸惑っていたが、今は意外にもすんなりと受け入れていた。それを目の前の彼女に伝えるかどうかは別の話として…
彼女の両手首は抑制帯によってベッドに繋がれていた。
スティングはその手をそっと握って、静かに呟いた。
「はやく起きろよ、フィーネ」
目覚めは良好だった。
頭を割るような激しい痛みも、張り裂けそうな程の心臓の拍動もない。
フィーネは一度大きく深呼吸して、満足気な表情を浮かべた。
ちゃんと息も出来る…
ふと、ベッドに縫い付けられた自分の視界の端に黄緑色の頭が見えた。ベッド脇に座ったスティングが、フィーネの手を握ったまま眠っていた。
その姿に、フィーネは微笑んで彼を呼ぶ。
「スティング」
彼はゆっくり顔をあげると、寝ぼけ眼でこちらを見た。黄色の瞳がフィーネを認識すると、慌てた様子で握っていた手を離す。
「悪い…」
フィーネは首を横に振って笑う。
「ずっと付いててくれたの?」
頬を赤らめたスティングは、バツが悪そうに頭をかいた。
「全然目覚めないから、心配した。ステラ達も…その、だから、俺がお見舞の代表っていうか…」
「目が覚めて良かった」と、スティングは安心したように息をついた。
どぎまぎする彼が面白くて、フィーネは小さく声を出して笑った。
「ありがとね。アレウスを回収してくれて」
エクステンデッドの中で1番冷静に戦況を見れる彼なら、きっと気付いてくれると信じていた。面倒見がよく、ステラ達の兄のような存在。
信じて良かった…
せっかくの新しい“力”だ。活かせないまま海に沈めるのだけは避けたかった。
フィーネは満足気に瞳を閉じる。
長い夢を見ていた気がする。
どんなものだったかはもう思い出せないけれど、胸に残る多幸感はきっと幸せな夢だったからだろう。
「寝ているときに、ね…」
フィーネは、ゆっくりと話しだした。
まだまどろみの中に居るような、穏やかな声色だった。
「頭の中で、ずっと声がしてた」
「…声?」
スティングは首を傾げる。
「大丈夫、大丈夫だから。って」
何が大丈夫なのか、分からないけれど…
フィーネは繋がれた手首を僅かに動かして、スティングに手を伸ばそうとした。彼もそれに気付いて、遠慮がちにその手を両手で包んだ。
「きっと、君がこうしてくれてたからかな…」