「アレウス…」
ジークは険しい表情で、デスクトップを睨んでいた。
映し出しているのは、先日の戦闘で“フェンリル”の目線で録画した映像だ。
連合の新型、“アレウス”
撤退を許してしまったこの真白いモビルスーツを、どうにかして拿捕出来ないものか…
破壊ではなく拿捕。機体もパイロットも、なるべく無傷で欲しい。
さらに、軍上層部に疑われないよう、拿捕するに値するそれらしい理由も考えなければならない。
ジークが必死に考えを巡らせていると、突然、自室のドアが開いた。
現れた赤服の少年に、ジークは驚いたように目を見張ったが、直ぐに唇に笑みを浮かべた。
「インターフォンくらい鳴らせよ。仮にも上官の部屋に無言で入ってくる奴があるか?」
デスクトップをオフにして、彼に向きなおる。
「俺の指揮官は艦長と、戦闘時はアスラン・ザラなので。貴方の部下ではない」
レイ・ザ・バレルは、表情を変えることなく冷たく返す。
「相変わらずだな、レイ」
ジークは、彼の自分に対する冷めた態度にはもう慣れていた。
「なかなか話しかけて来ないから、また“別の奴”なのかと思ってこっちも悩んでしまった」
「会えて良かった」と笑うジークに、レイはその端正な顔を歪めた。
「どういうつもりですか?ここに来て、しかもアーシェまでパイロットに戻して」
「ここに来たのはお前の大好きな“ギル”の命令だし、アーシェを戻したのはアーシェ自身の希望だ。何の他意もない」
淡々と答える。
「アーシェと同期だって?なら、前から知ってただろ、お前。あいつの本当のこと」
レイの士官学校での卒業時の成績は総合1位。アーシェとトップを競っていたなら、察しの良い彼が気付かないはずがない。
「なのに、議長は俺が報告するまで気付いてなかった。何で黙ってた?」
レイは強く拳を握る。
「忘れられるのなら、その方が幸せだろうと思っただけです」
淡いブルーの瞳が鋭くジークを睨んだ。
「俺は、貴方とは違うので」
ジークはそれを黙って見つめ返し、しばらくして大きくため息をついた。
「でも、あいつは俺達と同じだよ」
その言葉に、レイが一瞬怯む。
「なんだ、そのことを説教しに来たのか?なら出てってくれるか。今は穏やかに相手してやれるほど、機嫌が良くないんだ」
レイはチラリとジークの前のデスクトップに視線をやった。電源を落として暗くなったデスクトップの前には、乱雑に書類が広げられていた。
「そういえば、先日の連合の新型、“アレウス”でしたか…」
レイは、急に思い出したかのような口振りで言った。
「貴方が撤退を許すなんて、“ナチュラル”にしては、相当出来るパイロットなんですね」
ジークの眉が微かに動いた。
レイはそれを見逃さなかった。
「討てなかったのか、討たなかった、のか…」
「レイ」と、ジークが低く彼の言葉を遮った。
「言ったよな?俺、今機嫌良くないって」
その鋭い眼光は、獣の様だった。
それでもレイは冷静に続けた。
「時間、かけない方が良いと思いますよ」
「お前に、何が分かる…?」
「分かりますよ」
息の詰まるような空気の中、冷淡な声が静かに響いた。

「“彼女”の方は、俺と同じなんだから」