「おいおい、嘘だろ…」
アウルが困惑した様子で呟いた。
スティングも目の前の光景に、思わず顔を強張らせた。
ネオが珍しく休暇をくれた今日、スティング達はディオキアの町に出掛けた。
海が好きなステラは朝から海岸で遊んでいた。1日置いても大好きな海に飽きないステラに安心して、スティングとアウルは彼女の側を離れた。夕暮れ時になって迎えに行ってみると、彼女の姿が何処にも無い…
2人は慌てて海岸を探し回った。日が暮れても見つからない彼女に、最悪の結末が頭に浮かんだ時だった。ようやく現れたステラは、よりによってザフト兵に付き添われて帰ってきた。
「…スティング!」
嬉しそうに駆け寄ってきたステラを受け止めて、目の前のザフト兵を見る。
「おい…赤服じゃん」
小声でアウルが言った。スティングはそれを目配せして黙らせる。
腕の中のステラからは潮の匂いがした。彼女のお気に入りのワンピースは湿っていた。
「どうしたんだよ。お前、一体今まで何してた?」
怪訝そうに顔を顰めて彼女に問えば、近付いてきた平服の少年が答える。
「海に落ちたんです。ちょうど俺がそこに通りかかって…」
少年が笑う。
「良かった…これから何処に送り届ければいいのか、ステラに聞いても分からなくて…」
その穏やかな口調にスティングはホッとした。
正体がバレて拘束されていたというわけではないらしい。
「そうでしたか…助かりました。ありがとうございます」
精一杯の笑顔を作って礼を言う。こちらの緊張を悟られるわけにはいかなかった。
平服の少年の後ろに控えた赤服のザフト兵にチラリと視線をやる。
年頃は自分と同じくらいだろうか。赤服ということはエースパイロット…いつか自分達の手によって死んでいく相手だ。
「本当に、ザフトの方々には“いろいろと”お世話になって…」
穏やかではない心情を隠して、善良な民間人を演じてみせた。たくさんの憎悪を込めた皮肉に、彼らは気付いていない。
少年は照れた様子で「いえ」と謙遜する素振りを見せると、ステラに向き直った。
「良かったね、ステラ。お兄さん達に会えて」
「うん!」
ステラが嬉しそうに大きく頷く。
スティングは2人の様子に、複雑な気持ちになった。
ステラがこんなに懐くのは珍しい。この少年も人の良さそうな笑みを浮かべてステラを気に掛けてくれている。
だが…
平服だが、ザフト兵と一緒に軍用車両に乗ってきたということは、少年も軍属だろう。
ここで長く立ち話を続けるのは良くない。
隣のアウルは敵意を剥き出しにして赤服の方を睨み付けていた。スティングは慌ててアウルを小突いて、「帰るぞ」と小声で言った。
「それじゃあ、俺達はこれで…本当ありがとうございました」
そう軽く頭を下げて、ステラとアウルを車へ乗るように促す。
「…シン」
ステラは名残惜しそうに少年の腕を掴んだ。
「シン…また、会える?」
少年は切なげな表情を浮かべた。
「えっと…うん、会える。てか、会いに行くから!」
会えるわけないだろ。スティングは内心苛々して吐き捨てた。
ステラを車に乗せ、自分も運転席に乗り込む。ステラの顔はずっと少年の方を向いていた。
スティングは思い切りアクセルを踏み込んだ。
「ぜったい、会えるから!ステラ!」
走り出した車の後ろで、少年が叫んでいた。
随分と手なづけられたもんだ…
遠ざかる少年の姿を切なげに見ているステラをバックミラーで確認して、舌打ちをした。
ザフト兵の少年にもし再び会えるとしたら、それは“戦争”の時だ。その時は、自分達が彼を殺す。もしかしたら、彼を殺すのはステラかもしれない。
可哀想なステラ。可哀想な敵兵…
風に靡く金髪を盗み見て、スティングはため息をついた。