夜風で靡いた髪を耳にかけ、イザーク・ジュールは海を眺めていた。
久しぶりの地球。自然の海。
目の前に広がる果ての見えないそれを無言で見つめていると、背後で自身の副長の声がした。
「イザーク」
ディアッカ・エルスマンは小さくあくびを噛み殺す。普段飄々としている彼の顔は、今日ばかりは疲労を隠しきれないようだ。
宇宙でも連合との戦闘は絶えず続いていた。それから休む間もなく地球への降下。
さすがのイザークも彼の緊張感の無い表情を咎める気にはならなかった。
「ジュール隊の機体は全部、第3格納庫に入れてくれってさ」
「そうか」
イザークは踵を返して基地の方へと歩き出す。
遠くの埠頭に泊められた灰黒色の戦艦を横目に、イザークはしっかりと留められた立ち襟のホックを外した。
無意識のうちに漏れたため息は、穏やかな波の音に溶けていく。
空を見上げれば、満月が遥か頭上で淡い光を放っていた。宇宙コロニーの中で育ったイザーク達第2世代コーディネーターにとって、こうした自然は馴染みのないものだ。
しかし辺りの風景に心を動かす余裕など、今の彼らには無い。
隣で大きくあくびをしたディアッカに、イザークは「今夜はとにかく休め」と労りの声をかけた。