ディオキア基地の一角、モビルスーツの格納庫が連なるそこをアーシェは息をきらして走っていた。
「第3格納庫…」
泣き腫らした目を必死に動かして目的地を探す。
今朝、自身の上官がジュール隊がディオキアに降りていてることを教えてくれた。アーシェは既に知っていたが、昨日の出来事を正直に伝えることは出来なかった。
そして彼は続けて「ジュール隊は正午に任務に発つ」と教えてくれた。
その前に、ちゃんとあの人に会っておきたい…




「ジュール隊長!」
辿り着いた時、彼は既にパイロットスーツに着替えて機体に向かうところだった。
「…アーシェ」
「良かった…間に合った」
息を整えようと一度深呼吸をして、彼に向き直る。
イザークと一緒に居たディアッカは、2人の顔を交互に見て何かを察したようにニヤリと笑みを浮かべた。
「俺、先に行ってるから。アーシェもまたな」
「あとでちゃんと聞くからな」と、揶揄うようにウィンクしてみせて彼は自身の機体へと向かった。
「何を言ってるんだか、アイツは…」
イザークは呆れたようにため息をついて、アーシェに視線を戻す。
アーシェの赤みを帯びた瞼を見て、フッと笑った。
「酷い顔だな」
そう言う彼も目の下に薄っすらとくまが出来ていた。
アーシェは困ったように笑う。
「昨日はすみませんでした。ご迷惑をおかけして…」
せっかく久し振りに会えたのに、突然理由も言わずに泣きだして困惑させたに違いない。
それに…
アーシェは昨晩を思い出して頬を赤らめて俯いた。
“あんなこと”を言わせるくらい、気を使わせてしまった…
「言っておくが、雰囲気に流されたわけじゃないからな」
イザークはキッパリと言い放つ。
アーシェは驚いて顔をあげる。
「同情じゃない。お前が俺の横に居たときからずっと我慢してきた、本心だ。もう隊長じゃないからな、これからは遠慮はしない」
顔が耳まで熱を帯びていくのが分かった。
伝えたいことがあってここに来たはずなのに、彼の突然の宣戦布告にアーシェの頭は思考を停止してしまった。
彼は少し照れたように前髪をかきあげて、「ただ」と続ける。
「返事は今はするな。どっちにしても、今からの任務に支障が出る」
恥ずかしくなって再び俯いたアーシェの頭に軽く手を置いて、イザークは笑った。
「じゃあな、アーシェ。お前の武運を祈ってるよ」
そう言って機体に歩き出す。
「…あのッ!」
アーシェはその背中に叫んだ。
「今度は、ちゃんと…私のことをお話させてください。正直に…全部。隊長には、聞いて欲しいです」
昨晩、彼は「何者かなんて知ったことか」と怒っていた。本当の私が何なのか、彼には知って欲しいと思った。
全部知ったうえで、同じ想いでいてくれるなら…
振り返ったイザークは、瞳を細めて穏やかに笑った。
「ああ、待ってる」
アーシェは姿勢を正して、彼に敬礼した。
こうして彼を見送るのは随分と久し振りだ。胸に懐かしさが込み上げるのを感じて、アーシェは目頭が熱くなる。
昨日で涙は枯れ果てたと思ったのに…
せめて、彼が背中を向けるまではそれを見せないようにと、必死に堪えて言った。

「どうかお気をつけて、ジュール隊長」