#20

ミネルバに搬入された眩いオレンジの新型機を、ジークは憂鬱そうに見上げた。
“グフイグナイテッド”
エースパイロットだけに許されるオリジナルのカラーリングを施したそれは、今まさに自分に向かって手を振りながら走ってくる男のものだ。
「ジーク!」
「ハイネ…」
特務隊FAITHハイネ・ヴェステンフルスは、ジークを力強く抱き締めて人懐こい笑顔を見せた。
機体と同じオレンジの髪、弧を描いた唇から白い歯が覗く。
「いやー、久し振りだな!停戦後はめっきり会う機会減ったから、会えて嬉しい!」
「…相変わらず、元気そうでなによりだ」
ジークは大げさにため息をついた。
「お前もな。開戦時の核攻撃隊の殲滅といい、相変わらず派手にやってるな。あの日俺もあそこに居たが、あれは本当に助かった」
「俺もお前の活躍は見掛けてたよ。お前の機体は目立ち過ぎる…少し考えた方がいいぞ、アレ」
「…お知り合い、でしたか」
ハイネの隣に居たアスランが言う。いま彼はハイネに艦内を案内している最中らしい。
ハイネはジークの肩を抱いて得意気に胸を張ってみせた。
「ああ、親友さ!」
「…同僚だ」
「こいつ、年の割に戦歴は長いだろ?だから任務が被ることも多くてな」
ハイネのこの人懐こさと底抜けの明るさは、彼のイメージカラーがオレンジだというのも納得が出来る。対して、イメージカラーを黒としザフトで畏怖の対象とされてきたジークは、彼が少しばかり苦手だった。
人柄も良い。“FAITH”という立場だけあって、パイロットとしての実力もある。
ただ、陽の気が強すぎるんだよな、こいつ…
そのテンションの高さに当てられて、ジークは目眩を覚えた。
「お前まで配属されるというなら、いよいよ俺は宇宙に戻りたいんだが…」
ジークは眉を顰めて不満を漏らした。
「えー、連れないこと言うなよ。お前と一緒に戦えるって聞いて楽しみにしてたのに」
ハイネは大げさに口を尖らせる。
デュランダル議長の護衛でやって来た彼が、ミネルバの部隊に加わると知ったのは昨日のこと。艦長のタリアから告げられたジークは、内心穏やかではなかった。
直接の説明も無いままプラントに戻った議長を思って、ジークは胸のうちで舌打ちをする。彼は直接ジークに話すとまたアスランの時のように小言を言われると分かっていて避けたのだ。
今ミネルバにはハイネを含めて指揮官クラスが4人も居ることになる。いくら何でもめちゃくちゃな指揮系統だ。
もっとも、新たなやるべき事が増えたジークにとって、今はミネルバにいた方が動きやすいのは事実だった。だが、ザフト期待の戦艦であるミネルバはどうも居心地が悪かった。
“ヒーローごっこ”は性に合わない…
「まーた難しい顔しちゃって」
ハイネは深い皺を刻んだジークの眉間を指で小突いた。
「そんな顔してるから、ミネルバの若い子たちが近付けないんだよ。聞いたぞ、お前もアスランも、ここのクルーから距離置かれてるだろ」
ジークはアスランに怪訝そうに目配せする。アスランが気まずそうに小声で耳打ちした。
「先にレクルームに寄ってシンたちと会ってきたんです」
「…なるほど」
「シン達には言っておいたからな。名前で呼べって」
地球軍と違ってザフトには階級制度はない。個々のレベルが高いザフトは、現場の判断が優先されている。故にパイロットは皆平等だというのが、ハイネのポリシーだった。
気負わないその性格は彼の魅力のひとつだろう。現にザフトには彼を慕うパイロットが多かった。
「ま、とにかくこれから宜しく頼むな!俺とお前、そしてアスランまで居たら最強だ。息合わせてばっちり行こうぜ!」
快活な笑い声をあげて先を歩き出したハイネの背中を見つめて、ジークは再び大きなため息をついた。
「俺も、あれくらい大きく構えられたらいいんですが…」
ジークだけに聞こえるようにアスランは言った。
「ちょっと…」と苦笑する。
ジークは彼を慰めるように、肩を軽く叩いた。
「あれは特別だ。気にするな」