研究員から差し出された小瓶を一気に飲み干して、フィーネは息を吐く。
久し振りの“戦争”に、唇に喜色が浮かんでいた。
やっと“メンテナンス”を終えた彼女は、機嫌が良かった。側に控えた研究員に空き瓶を渡して礼を言うと、目の前に立つ純白の機体に向き直る。
「待たせてごめんね、アレウス」
前回の戦闘で右脚を撃ち抜かれて破損してから、フィーネは“アレウス”の整備状況が気掛かりだった。自分自身の“メンテナンス”に時間がかかったせいで、しばらく放置してしまった。完璧に修理されたその姿に安堵する。
「大丈夫か?フィーネ」
隣でその様子を眺めていたスティングが、心配そうに声をかけた。
「うん。今日はすごく調子がいいの」
そう言うと彼は安心したように小さく笑った。
フィーネはそんな彼の顔を見つめ、名を呼んだ。
「…スティング」
両手を広げて無言で訴える。
フィーネの意図を直ぐに理解したスティングは、照れたように頭を掻いてから彼女をそっと抱き締めた。
スティングの腕の中に収まったフィーネは満足気に笑う。
“メンテナンス”を始めてから彼女は時たまこうしてハグを求める。安心するのだと、何かの不安から逃れる為にスティングを求めた。
最近のフィーネは甘えただった。以前の彼女は、どこか他人を拒絶するような雰囲気があって、こうして人目も構わず馴れ合うなどあり得なかった。
今のフィーネがメンテナンスによって作られたものなのか、それとも彼女本来の性格によるものなのかはスティングには分からない。ただ、こうして求められることに満更でもない自分の姿は、傍から見れば滑稽であろうことだけは薄らと理解できた。
「…今日も、頑張ろうね」
「ああ」
スティングは複雑な感情を抱きながら、水色の髪を優しく撫でた。
「他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない…」
物憂げに瞳を伏せてアーシェは呟いた。
「良い信念をもった国だと思ってました。景色も綺麗らしいし、いつか行ってみたい国だったんですけど、時代の流れは無情ですね…」
ジークは割り切った口調で「仕方ないさ」と言い放つ。
「同盟を結んだ以上、いつかはこうなった」
これまで頑なに中立の意思を守ってきた誇り高い国の派兵。
他国の戦争の為にわざわざ遠く離れたトルコまで派兵するとは、今のオーブはよほど大西洋連邦の力に怯えているのだろう。
「オーブに何の恨みはないし、気の毒だと思うがな」
ジークはオーブの若き代表を思って同情の言葉を吐いた。
確かまだ18の少女だったか…
今回の同盟が大西洋連邦からの圧力によるものだということは、容易に想像出来る。若くして一国を任された彼女が、国を守る為にした決断だ。
「珍しいですね」
アーシェが意外だと言うような表情で、顔を覗き込んだ。
「敵に同情するなんて…代表が女の子だからですか」
「ばか」とジークは不快そうに眉根を寄せた。
「ザフトの前に立ちはだかるというなら誰であろうと殺すさ。ただ、あの2人を見ているとどうも複雑でな…」
ジークは視線を格納庫の端へと動かして、アスランとシンの姿を確認した。出撃準備をする2人は何かを考え込むように険しい表情を浮かべていた。
シンはオーブの生まれ。アスランは大戦後オーブに亡命してからは、アスハ代表のボディガードを務めていた。恐らくアスランは、代表と親しい間柄だったのだろう。以前、代表の結婚の話を聞いた時に酷く動揺していたのを覚えている。
祖国を相手に戦わなければいけない彼らの心情を察してため息をついた。
パイロットスーツの首元をしっかり止めると、ヘルメットを被る。
「ああやって、自分が選んだ道の正当性を自問自答しなきゃいけないのも可哀想なもんだな」
彼らはいつだって自分の意志で、自分が信じる正義のもとで戦える。自由な立場ではあるが、ああして悩みも尽きないことだろう。
最初から戦う場所が決まっている自分とは違う。
ジークはそれを少しだけ羨ましく思いながら、呟いた。
「どっちが幸せなんだろうな…」