降谷零に看病される


お題箱より。
生理ネタ注意。
組織壊滅後設定。





 ぐらり、と体が傾ぐ。
 力の入らぬ脚。眩む視界。崩れ落ちる体を、しかし抱き止める手がひとつ。

「大丈夫か?」

 顔を覗き込まれ、名前は咄嗟に頷く。が、背中に回された手は離れない。むしろ力を籠められたような気さえする。
 それを裏づけるかのように、名前を抱いた零は眉尻を下げた。

「こういう時くらい素直に甘えたらいいのに」

 彼は言い、そのまま名前を抱き上げた。
 弱りきった名前に抵抗の余地はない。名前の体は為す術なくベッドの上に横たえられた。

「……零は大げさ」

「そういうのは起き上がれるようになってから言うものだよ」

 顰めっ面の名前の鼻を人差し指でつつき、零は笑う。そして名前の体を布団ですっぽりくるんでしまった。
 名前は自身が元気であることを証明しようとした。怪我でも病気でもないのだから、と。
 けれど腹部は少し動かすだけで名前に鈍い痛みを与えてくる。これでは家事をするどころか、彼の言うように起き上がることすらままならない。しかも一度寝かせてしまった体では、普段ならなんてことない動作すら名前に苦しみをもたらした。

「うー……」

 痛みと悔しさから洩れる唸り声。唇を噛む名前を、零はやっぱり微笑みながら、その頬に手を滑らせた。

「よく眠れるように子守唄でもつけてあげようか」

 いつの日か名前が言った台詞。それを横取りした人はきしりと音を立ててベッドに乗り上げた。

「零?」

 名前がぼんやりとその動きを眺めている間にも彼は事を進めていく。
 すらりとした体躯を名前の隣に滑り込ませると、零は背後から名前を抱き締めた。
 そして「よしよし」と幼子にでもするみたいにその腹を撫でるのだった。

「何してるの……?」

 意図が掴めない名前は相変わらずぼうとした目で振り仰ぐ。その視線を受け止める彼の微笑に変化はない。ただ優しく、

「この方が落ち着くかと思って」

 と答えるだけだった。
 その言葉に、「確かに」と名前は視線を落とす。
 痛みの続く体。けれど彼の言うように、触れられたところからじんわりとした温かさが広がっていくような気がする。
 それに何より、背中に感じる気配に心が凪いでいくのがわかった。それまでは痛みに動揺していたというのに。

「ありがとう……」

「こんなのはお礼を言われるようなことじゃないよ」

 零は、「僕は代わってあげられないから」と苦笑する。
 けれどその優しさが何より名前の支えとなっていた。
 名前は「十分すぎるわ」と笑い、零の手に自身のそれを重ねた。それだけで胸には愛しさが込み上げる。
 その心のままに背後へと身を預けた。他のどこにもない安心感。それはもう彼の腕の中でしか得られないものだった。

「こんなにつらいと思わなかった。みんなよく耐えてるわね、尊敬しちゃう」

 だからつい、弱音も吐いてしまう。口に出してしまえる。彼には取り繕う必要なんてないのだと。

「これまで薬で抑えていたせいかもね」

「ん、でももう組織はないから薬も貰えないし……」

「あぁ、でもその方がいいよ。体にどんな負担があるかわからないから……」

「そうね……」

 抱き締められた体と包み込む温もり。
 話すうち、いつの間にか名前の瞼は重くなってくる。痛みで今夜は眠れそうにないとすら思っていたというのに。
 うつらうつらと舟を漕ぐ名前を促すように、零は囁く。

「いいよ、そのままおやすみ、名前……」

 吐息と共に与えられたのは、うなじへのささやかな口づけだった。



 名前が目覚めたのはそれから二時間ほど後のことだ。

「少しは休めたかい?」

 そう声をかけてくる彼は既にベッドの住人ではなかった。けれど名前を慈しむ目は変わらず、その手には湯気のたつティーカップが用意されていた。彼は名前の目覚めさえ把握しているらしい。
 淹れたてほやほやのカモミールティー。その効能を寝惚けた頭で思い出し、彼の優しさを改めて痛感する。

「ありがとう、零」

「いいえ、どういたしまして」

 今度こそ彼は名前の言葉を受け入れてくれた。その微笑に笑み返し、名前はティーカップに口をつける。
 零が手ずから淹れてくれたカモミールティー。本当の彼は緑茶派だというのに。

「私、本当に幸せ者ね」

「なんだい、唐突に」

「……うん、言いたくなっただけ」

 名前は目を細めた。
 本当はいつだって思ってる。今の幸福を。昔の名前なら想像することすらできなかった今を。いつだって尊いと思っている。
 その象徴である彼を名前は見上げた。
 降谷零。名前の飼い主……だった人。そして今は大切なーー

「……あなたと生きるためじゃなかったら、こんな痛みと付き合っていけそうにないわ」

「嬉しいことを言ってくれるね」

 零は擽ったそうにはにかむ。その表情は少年のようで、名前の額に落とされた唇も戯れのそれだった。けれどその温もりに感じる心強さは、決して子どものものではなかった。







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遅くなりすみません!リクエストありがとうございました!
ネタ出ししてくれた友人にも感謝。