「え、何ですかこれ!?全然気付かなかった…」 探偵社の面々に聞いてみた所で返ってくるのは同じ様な言葉で、私と彼らは一様にううん、と首を捻った。 事務所からおろおろする私を引っ張り出した太宰さんは、ぎょっとして手を止める探偵社の社員たちを他所に社長室へ乗り込み「隣人を助けたいのですが」と福沢さんへ言い放った。ギロリと何時もの恐ろしい顔で此方を見やった福沢さんは、予想外にも極力早く片付ける事を条件に私の初めての依頼らしきものを請けてくださった。 「うわ、これ此の間なまえと飲みに行った時のじゃあないかい。気味が悪いねぇ」 変な気配はなかったと思うけど、と続けながら与謝野さんがまじまじと写真を見つめる。 「僕らも写ってるもンねぇ、これとか。角度的に道挟んだ向かいって所だけど」 「…なまえ、写真はこれで全部かい?」 与謝野さんに尋ねられて私は少し狼狽えた。其れを太宰さんが見逃すはずもなく、「なまえちゃん?」と笑顔で名前を呼ばれる。与謝野さんも同様である。その笑顔の強制力たるや、私は微塵も逆らえそうにない。 「そのう、他にも写真はあるにはあるんですが…」 どうしようか、念の為に持ってきた其れを出すか否か思案してみるけれど、仮にも武装探偵社なる彼等にこんな一般人のストーカー疑惑の相談なんてものに乗ってもらっているのだから、隠し事は良くない。そう思って意を決してみるけれども、どうにもこれは、与謝野さん否女性陣以外に見せるのはかなり抵抗がある。 「あのう、与謝野さん、」 兎に角と与謝野さんへ声をかけて国木田さんや太宰さんには見せなかった其れを渡す。「えぇ〜何々気になる私にも見せて」と煩い太宰さんを抑えて其の写真を見ると、与謝野さんの動きがピタリと止まった。 「うん、これは、まぁ確かにねぇ」 与謝野さんの言葉に思わず顔を伏せる。たとえ女性相手といえども其れを見られるのは矢張り恥ずかしい訳で、みるみるうちに顔面に熱が集まるのが自分でも分かった。 ストーカー、らしきその人が送ってきた写真は私の外での行動を観察した物は勿論の事、事務所の隣に設けた仮眠室で着替える姿も捉えられていた。要は下着姿の其れである。 建物の外から捉えられたらしい其れを見て、何故着替える時にブラインドをきちんと下ろしていなかったのかと酷く後悔した。 「なまえ、あんた結構着痩せするんだね」 「どうせ太ってますよ…最近体重増えたし…」 「否。そうじゃなくて、むしろ胸が…」 「ちょっと与謝野さん黙って!!!」 与謝野さんの言葉に首を傾げる賢治くん以外の男性陣は写真に何が写っているのかを悟ったらしく、国木田さん、敦くん、谷崎くんは顔を伏せ、太宰さんは矢張り「私も見たい」と宣った。 「でも建物の外から撮られてるって事は向かいのビルからだろう?何でこんな無防備に着替えなんかしてんだい」 「多分これ、朝の5時半とかですよ」 「えっ、なまえさんそんな時間に出勤してるんですか?」 「……いや、帰るのが面倒で泊まり込んだの」 何というかどんどん自分の恥ずかしい部分が露呈していく様な気がして勘弁して欲しい。そもそも何故わたしがこんな目に遭わなければいけないのだろうか。 ストーカー、と言われた所で心当たりなんて物は全く思い浮かばなかったし、気味が悪いけれども同時に物好きな人もいたものだなぁと思う。 「乱歩さんは出張だし、僕らだけで調査するしかないですね」 谷崎くんが困ったように眉尻を下げながら言った。言われてみれば、何時もなら私がおすそ分けやら何やらで探偵社にやって来た時にはすぐに飛んでくる乱歩さんの姿が見えない。流石に名探偵はお忙しいらしい、と感心する私を余所に取り調べが始まった。 「事務所の中で起きるおかしなことって、留守の間に起きてたんですか?」 「いいえ。いない間にって云うよりもちょっと目を離した隙に、ってところかなぁ」 「たしかに、さっき食器が割れた時も、人の気配はなかったように思うな」 顎に手を添えて国木田さんがそう言うと、太宰さんを除く他の社員たちの視線が一斉に彼の方へ集まった。 「えっ国木田さんなまえさんの所にいたんですか?」 「見かけないと思ったら、へぇ、そうかい」 にやにやと笑う面々に国木田さんはどこか罰が悪そうに「煩い」とだけ返す。 「人の気配がなかった…って云うことは、何らかの仕掛けがあるか、それとも本当に座敷童子の仕業かな?」 巫山戯た様に話す太宰さんに「座敷童子は写真なんて撮らないでしょ」と敦くん。 確かに、今まで気にならなかった其れが恐ろしくなったのは、盗撮の写真が送りつけられたことと、事務所の中で起きていた現象がちょっとした親切から、悪意を感じる様なものに変わっていったからだ。 最初に湯飲みが壊されたのが太宰さんが来た日、つまり男の人と二人きりになった日であるし、おそらく相手は男ではないか、というのが探偵社の結論だった。 しかし男性と言われても取引先と探偵社の人達以外に殆ど知り合いのいない私に心当たりは無く、一先ず撮られた写真の場所などから犯人を洗い出すことと、その間私に護衛をつけてくれるということになった。 「なまえちゃんも災難だねぇ。じゃあ今日は私が君を家まで送るから、終わったら上まで来てくれるかい?」 エレベーターの前まで見送ってくれた太宰さんが、私の手の甲に口付けながら楽しみにしてるよと言う。私の方はといえばいつの間にやら大事になってしまって申し訳ないやら恥ずかしいやら、しかし探偵社の皆が付いていてくれるのならこれほど頼もしいことはないな、と少しほっとして、よろしくお願いしますと頭を下げて、エレベーターに乗り込んだ。 行き帰りも護衛をしてくれるとのことだったけれど、明日の朝はどうすればいいのだろう、おそらく太宰さんは起きられないだろうし敦くんとか国木田さんだろうか。そういえば謝礼は幾らくらいお渡しすればいいか、聞き忘れていたな、と考えているうちにエレベーターはすぐに3階に着いて、扉が開く。 「あ、すみません!留守にしていて」 そうしたら事務所の前にスーツ姿の男性が立っていたので慌てて声をかけた。 「お仕事のご依頼、で、…」 振り返ったその顔を見て、ピタリと足を止める。明らかに、私に対して敵意のあるその顔は、どこかで見たことのある様な。 「っ!!」 しかし考える間も無く後ろから頭に衝撃が走り、私の意識はそのまま暗く沈んでいった。 160915 戻る |