「よーしお前ら!今日は存分に飲めぇ!!」

何故こんなことに。
目の前で早くも酒瓶を抱えて狂喜乱舞する隊士たちを眺めながら、なまえは頭を抱えた。屯所で時折こういった飲み会なるものが開かれるのは知っていたけれども、大抵その時は局長である近藤の計らいもあって、女中たちは準備だけしておけばあとは自由ということになっていたため、女は女同士でと外へ飲みに出たりすることがほとんどらしい、のだけれど。

「あいたっ!」
「ボサッとしてねぇで酒注ぎなせぇ」

朝一番に沖田のところへ行けば唐突に「今夜の飲み会、強制参加だからな」と言い渡され、先約がと言いかければお得意のバズーカを突きつけられた為にそれ以上は何も言えずに口を噤んだ。
結果、なまえは男ばかりの中に女たった一人で放り込まれ、どうしたものか分からずに沖田の横へ座らされたまま、ただ黙々と彼の盃へ酒を注ぎ、酔って絡んでくる隊士たちによって次から次へと注がれる酒を飲んだ。
乾杯の前になまえの姿を見てギョッと目を見開いた土方は、隊士達が飲み始めてすぐに携帯に連絡が入ったらしく部屋を出たまま、未だに戻ってきていない。

「なまえちゃん、飲んでるぅーー?!」
「えっ、あ、はい!すみません」

突然上半身裸の近藤が銚子を持ってやってきたのでなまえは慌てて顔を逸らした。
聞いたところによると飲み会の席で近藤はよく全裸になることも多いらしいのだが、今日はまだ半着の袖を抜いただけの格好だったので安心する。とは言っても男の裸なんてそうそう見るものではないし慣れるものでもないので、眼前に迫る鍛えられた身体に目のやり場もなく視線を泳がせた。
まぁまぁ、と言いながら銚子を差し出してくる近藤に失礼のないように盃を掲げながら、助けを求めようと隣を見るとついさっきまでそこにいた沖田は向こう側で山崎らと絡んでいる。案外お酒が入るとやはりまだ幼さが出るのかはしゃいでいるらしいその姿に、今自分が置かれている状況が違えばもう少し微笑んでいられたのに、となまえは思った。

「なんか悪い事しちまったなぁ、なまえちゃん。総悟が無理やり参加させたんだろう」
「ああ、そんなこと、は…」

ないです、とは言い切れず、なまえはぐいと盃を傾ける。おおっ、と嬉しそうに声を上げた近藤はなまえの正面へ腰を下ろしてまぁもう一杯、と空になった盃へ酒を注いだ。

「あいつも難しいやつだからなぁ。ただ、側役を指名なんてしたのも、こんなに長く一人の女中さんと上手くやれてるのも初めてなもんでな」
「う、上手くやれているんでしょうか、わたし…」

毎日逃げられるしデコピンはされるし頬はつねられるしその他もろもろ、自分がきちんとお役目を果たすことができているのか不安に思っていたなまえは首をかしげる。

「まぁとにかくだ!これからもあいつのこと頼むよ、なまえちゃん!!」
「あ、はい、あのう、近藤さん…」

そんな風に言ってもらえるのは嬉しいのだが、ずい、と熱を込めて徐々ににじり寄ってくる近藤になまえは一層狼狽えて目を伏せた。近い。どうしよう。

「近藤さん、裸で女中に迫るのはその辺にしとけよ。そいつ困ってんぞ」

まさか離れてくれとは言えないし、と思ったところでなまえの後ろから声が落ちてきた。振り返るとそこには呆れ顔の土方が立っていて、ああ助かった、と思わずほっとしてしまった。近藤は言われてからようやく気付いたらしく、「ああっ!すまないなまえちゃん!!」と後退る。

「トシ、お前どこに行ってたんだ!」
「悪ぃな近藤さん、ちょっと野暮用だ。もう済んだから俺も飲む」
「おぉー飲め飲め!なまえちゃんも結構イケる口らしいからなあ!」

盃を受け取りながら近藤の言葉を聞いて、土方はまた驚いたようになまえの方を見る。当のなまえは横からやってきた隊士に酒を注いで、注ぎ返された酒を飲んでいるところだった。ほんのり頬は上気しているが、赤ら顔でどんちゃん騒ぎの隊士達に比べれば随分としっかりしているし、意外と酒に強いらしい。

「…お前大丈夫か?」

とはいえ男だらけの宴会の中に女が一人というのは心配であるし、あまり酔わせてはいけない。無理やりになまえを引っ張ってきた沖田はといえば既に酒瓶を抱いて船を漕ぎ始めていた。無責任な奴め、と心の中で悪態をついていると、振り向いたなまえはすっと白い手を伸ばして土方の盃へ酒を注いだ。

「大丈夫です、ありがとうございます」
「…お前酔ってねぇだろうな?」
「ええと、まだ泥酔とまでは」
「泥酔する気かよ」

ふふふ、と笑うなまえの笑顔はいつもよりも幾分か気が抜けてふにゃふにゃしている。いつもの彼女ならこんな場所へ連れてこられればただおろおろするだけであろうに、今のなまえは臆することもなく隊士達と話し、酒を飲み、笑っていたので、酒の力かそれとも大分屯所に慣れてきたのだろうか、と考えながら土方は盃を傾ける。

「なまえちゃん、俺にも注いでくれ!」
「俺も俺も!」
「はい、どうぞどうぞ」

ここぞとばかりになまえに群がり話しかける隊士達に睨みを利かせながら、それでも彼女が楽しそうにしているので、どこかホッとしながらその横顔を眺めた。





161006


- 10 -

戻る
ALICE+