「沖田さん、おはようございます」

就業時刻を過ぎてもまだ起きてこない沖田の部屋の前で中へ向かって声をかける。
昨日の宴会の名残で屯所ではあちこちで頭を抱えたり青い顔をした隊士達の姿が見られたけれども、あれだけ大量の酒を飲んだにも関わらずすっきりした面持ちのなまえを見て驚く人間は一人や二人ではなかった。
周囲から酒に強いだとかザルだとか言われる事が多いために、自分の酒の許容範囲が人よりも広いということを自覚はしていたなまえだったが、しかし昨日はどう考えても飲みすぎた。記憶をなくしたことも二日酔いになったことも、ましてや吐いたりなんてこともしたことはなかったが、今回ばかりは記憶が消えていればいいのにと思う。
昨日、土方に言った言葉やしがみついてそのまま眠ってしまった自分を思い出すたびに、顔から火が出そうだった。しかも気づいた時にはしっかり自分の部屋の布団の上へ寝かされていて、朝一番に顔を合わせた土方に聞いてみると部屋まで運んでくれたというので、「もういいっつってんだろ」と彼が逃げ出すまでひたすら謝り倒した。もうしばらくの間は酒は控えようとなまえは心に決める。

「沖田さん、」

昨夜の回想を頭から振り払ってもう一度沖田へ声をかける。しかしやはりいつまでも返事がないので、なまえはそうっと障子を開けて中を覗き込んだ。
ものが少ない部屋の中央に敷かれた布団はこんもりと盛り上がっており、そこに部屋の主がまだいるであろうことを物語っている。もう一度呼びかけてみたけれども反応がないままだったので、なまえは小さく息を吐いて、そろりと部屋の中へ足を踏み入れた。

「沖田さん、朝です。起きてください」

布団がもぞもぞと動く。目が覚めてはいるのだろうか。
以前なかなか起きてこない沖田を起こしに来た時に、布団を揺すると大量の爆竹が巻かれた人形が出てきたことを思い出しながら、なまえはいつでも逃げられる様にと注意深く布団へ近づいていく。

「あのう、」
「…うるせぇなァ」

そうすると漸く布団の中からくぐもった声が聞こえてきたので、どうやらきちんとそこにいるらしい、なまえはほっとして手を伸ばした。控えめに触れると、パッと布団の中から男性にしては色白の手が伸びてきて、膝をついて身を屈めていたなまえの腕を捕まえた。

「えっ!?」

慌てて身体を引こうとしたけれども間に合わずに、上半身だけ掛け布団を跳ね除けた沖田の上に倒れこむような体制になってしまった。至近距離で見上げられ、なまえは急いで掴まれていない方の腕を沖田の身体の横へつき、突っ張ってなんとか距離をとろうと試みる。
しかしがっちりと掴まれた右腕のせいで、十分に離れることはできずに、なまえはどぎまぎしながら「沖田さん、離してください」と懇願した。

「二日酔いで頭痛ぇんだ、静かにしなせェ」

たしかに微かに眉を寄せた沖田の顔色は悪いし、声もいつもより弱々しく思えた。

「だからってお休みはできません、土方さんに怒られますよ」
「うるせェや」
「薬、持ってきますから。支度なさってください」
「頭痛ぇっつってんだろ」

ふう、と息を吐き出して顔を背けた沖田を見て、なまえは無意識にその額へ手を伸ばした。あれほどがっちり掴まれていた手が驚くほど呆気なく解放されたので、やはりこれは、と思う。

「……二日酔いなんて嘘じゃないですか」
「…うるせェ」

触れた額から伝わる熱はおそらく平熱よりも随分と高い。煩わしそうな顔をする沖田に布団をかけ直すと、寝返りを打って背中を向けられた。
きっと昨日酒瓶を抱いて布団もかけずに朝方まで寝ていたからだろう、それにしても沖田でも風邪をひくなんてことあるのか、と意外に思う。今日はこのまま仕事は休んでもらうとして、その旨は上司である近藤に伝えればいいのだろうか。ひとまず薬と何か食べるものをと思い立ち上がると、沖田が少しだけ振り返ったのでなまえは再び座り直した。

「お粥、作ってきますね。あとお薬と」
「……いらねェ」
「しっかり食べないと、治るものも治りませんよ」
「………」

顔まで引き上げられた布団のせいで沖田の表情は見えなかったけれど、おそらく不機嫌そうな表情をしているだろう。しかし何も言い返してこないあたりやはり身体の不調には堪えているようだった。
なんだか拍子抜けしながらなまえが障子を開けて廊下へ出ようとしたところで、後ろから「玉子粥、」とだけ小さい声が飛んでくる。思わず微笑んでしまった顔を沖田が見たらきっと舌打ちでもされるのだろうなと思いながら、なまえは分かりましたと返事をして静かに障子を閉めた。




161016
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