なまえの作って持ってきた玉子粥はきちんと病人用にと薄味で、味もごく平凡だった。味は大丈夫ですかと聞かれてなんと答えるべきか悩んだ末に沖田が「普通」と言うと、なまえはそうですかと柔らかく笑う。やけに歳上という事を意識させるその顔に苛ついて、側にいられたら食べ辛いと言って部屋から追い出したけれど、それでも彼女は嫌な顔一つせずに大人しく、静かに障子を閉めて出て行った。
玉子粥は案外すぐになくなってしまって、今朝目が覚めた時には食べ物なんていらないと思っていたというのに、空になった小さな土鍋が少しだけ名残惜しかった。
薬を飲んで横になる。この分なら一日休めばすぐに熱など下がるだろう、体調管理ができないだなんて士道不覚悟だ切腹だなどと喚く土方が容易に想像できたので、明日はまず先手必勝で斬りかかろうなどと考えながら、沖田はゆっくり忍び寄ってくる睡魔に目を閉じた。
小さい頃、熱が出るとよく姉が作ってくれたのは玉子粥だった。薄味のそれは病人気分をいっそう強くさせたけれど、別に味なんかはどうでもよくて、姉がつきっきりで自分の隣にいてくれるのが幼い沖田には嬉しかった。眠っているときにそうっと額に乗せられる、細くてひんやりした手の感触は今でもよく覚えている。
「……すみません、起こしてしまいましたね」
今日はやけにその記憶がリアルだなと思い目を開けると、枕の横に膝をついたなまえが申し訳なさそうに小さな声で謝った。沖田の額に触れていた手が控えめな動きで離れていく。
明かりをつけていない部屋の中が薄暗くなっていたので、おそらくもう夕方頃らしい、自分がそんなにもぐっすり眠りこけていたのかと思うと嫌な気分だった。何より、なまえが部屋に入って来たということに気づかなかったことが沖田にとっては屈辱的である。
いつもなら彼女が部屋の前の廊下を歩いてきたくらいのところで気がつくというのに。
「熱、だいぶ下がりましたね。気分悪くないですか?」
顰め面になった沖田の表情の意味をなまえは捉え違えたらしく、心配そうに聞いてきたので「別に」とだけ返すと、ホッとしたような顔をされる。そういう、ただ優しいばかりの空気を垂れ流している奴が側にいる方が気分が悪くなる、と言いたいところだったが、体力を無駄に使いたくなかったし、またやんわりと笑って「もうすぐお夕飯の時間ですけど、どうしましょうか」と言うなまえに色んなものを削がれてしまって沖田は曖昧に頷いた。
「おうどんでもどうですか?」
「なんでもいい」
「お野菜しっかり入れても食べられます?」
「ん」
まるでオカンのようである。
起きられるのなら身体拭くもの持ってきましょうか、と言われて汗で浴衣が張り付いて気持ち悪いことに今更気がついた。無言のままの沖田になまえは持ってきますと柔らかく目を細めて部屋を出て行く。妙に看病が手慣れているなと思いながら、沖田はまた寝返りを打って浅い眠りに落ちた。
161024
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