非番の度に、とまではいかないものの、街によく出るようになって大分街並みにも慣れてきた。どの道を通ってもある程度目的地へ辿り着けるし、お気に入りの甘味屋も、可愛い簪を置いている小間物屋も見つけた。
いよいよ自分も都会の人間になってきただろうか、と思いながらなまえが意気揚々と甘味屋に向かっていると、前から見知った顔がやってきたので会釈する。するとそれを見た銀時が何故だかものすごい勢いで駆け寄ってきたので、なまえはぎょっとしてその場に立ち止まった。

「なまえ!!!今日、もしかして非番?」
「え、あ、えぇ、一応…」
「この後の予定は!?」
「あー、角の甘味屋に行こうかと…」

ものすごい気迫に押されておろおろするなまえをよそに、銀時はなぜだか「おっしゃ!」とガッツポーズをしてから、その手を両手でギュッと握りしめた。

「俺の奥さんになってください!!」
「……………え?」









「いやーまじで助かる。ほんっと助かるわサンキューななまえチャン」
「はぁ……」

銀時に土下座されん勢いで頼まれとにかくついて来てくれと連れてこられたのは立派なお屋敷で、訳が分からないまま応接室に通されると屋敷の主人らしき男性が銀時となまえによろしくお願い致しますと深々頭を下げた。そして渡された書類には女性のプロフィールが書いてあり、此方ですと使用人に連れられ気がつけば服を着替えさせられ、何故か今は洋装で、同じく洋装の銀時と車に乗せられ移動中である。なまえは頭を抱えた。確か自分は甘味屋でのんびりお団子でも食べて非番を過ごすはずだったというのに、この状況はどういうことだろうか。
詳しい説明を銀時に求めると、万事屋へ護衛の依頼が舞い込んできて、その対象が先ほどのお屋敷の娘だそうだ。大きな会社のご令嬢ということになるのだが、最近その会社の周りでどうも不穏な動きがあり、今日あるパーティに出席する娘を婚約者のフリで護衛するはずだったのだけれど、直前になって娘が出席したくないと駄々を捏ねたので身代わりを探していたらしい。

「というかそもそも、出たくないと仰っているのであれば欠席にされればいいのでは…」
「欠席はできねぇんだと。金持ちの考えることはよく分かんねぇけど、会社の力関係とか色々あんだろ」

資料によれば娘は十八歳になったばかりで、まだ公の場にはあまり顔を出していないため、しっかり口裏を合わせておけばまずバレないであろうということだった。
説明を聞いた瞬間に自分には無理ですと断ろうとしたなまえだったが、銀時が「神楽に卵かけご飯ばっかりじゃなくて、まともなもん食わしてやりてぇんだよ」だとか「いつも一生懸命頑張ってくれてる新八に、たまにはボーナス出してやんねぇと男がすたる」などと言ってしくしく泣くので根負けしてしまって、今回だけですからねと手伝うことにしたのだ。
それにしても、となまえは銀時の横顔を見上げる。

「ちなみに、どうして坂田さんは婚約者なんですか…?」

普通に護衛でよくないですか、と言うなまえを横目で見て、銀時はにやりと笑って彼女の肩を抱き寄せた。普段は着物で覆われているそこは今はパーティ用の肩の出たドレスのため、直接肌に手が触れて思わずどきりとする。

「そりゃお前、婚約者が一番ぴったりくっついてて怪しくねーだろ。それに、こうやって触れるし」
「せっ、セクハラじゃないですかそれ!」
「婚約者だから問題ナシに決まってんだろ。あと、坂田さんじゃなくて銀時な」

慌てて顔を銀時の方へ向けると、思ったよりも近い距離感になまえは思わず目を伏せた。銀時がにやにや笑っているのが気配だけでもなんとなく分かる。
沖田はデコピンやらバズーカやらと確かにドSだと思うけれども、目の前の銀時も中々にいい勝負だと思った。
せめて銀さんでお願いします、となまえが食い下がったところで車がパーティ会場に到着する。ドアを開けられて銀時の手を借りながら降りると、目の前には煌びやかな高層ホテルが立ちはだかっていたので、なまえは本当に大丈夫なのだろうかとまたもや頭を抱えた。

「そんな不安な顔すんな、甘味屋なら今度奢ってやるから」
「だってさか…、銀さん、わたしきちんと演技ができるか」

そもそも突然渡された数枚の資料だけで社長令嬢になりきれと言われても土台無理な話であって、なまえは今更ながらに流されてここまでやってきた自分を後悔した。慣れないピンヒールでもう足が痛い。
口をへの字にして俯いていると、不意にふわりと柔らかい感触が肩を覆った。
顔を上げると、銀時が、いつから持っていたのか薄いショールをなまえの肩にかけ、それから顔を隠している髪をそうっと掻き分けて覗き込んでくる。

「ちゃーんと別嬪に化けられてんだから、自信持てって。何があっても守ってやっから心配すんな」

言って、にっと笑った顔は初めて会った時のように眩しい。
その笑顔にようやくほっとしてなまえも笑うと、差し出された腕にぎこちなく自分の腕を絡ませて、パーティ会場へと足を踏み入れた。



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