#3 夢見心地

 正直、ボーダーでの仮想空間での訓練はすごく楽しかった。勝負をする中でのスリルや駆け引き…… あの空間は、ボールを手にしたばかりの頃と同じくらいに自身を奮い立たせた。これが対人だと思うと、もっと楽しくなるのだろうなと心のどこかで確信している程には期待で胸が膨らんでいる。きっと自分より強い敵…それも簡単には追いつけないような人が沢山いる。そう思うだけで気持ちが早くボーダーに行きたいと強まっていった。
 本当は引っ越しが終わるまでボーダーに行く予定はなかったのだけど気が変わった私は思い立った瞬間両親の元に向かい、引っ越す日にちは変更できないから実家から通いたいと親に相談したら「交通費や宿泊費にいくらかかると思ってんの!」と速攻で母に怒られ却下された。それでも諦めなかった甲斐あって、来月に一度2泊だけと、優しい父のおかげで許可が降りた。また熱中できるものを見つけた私を見て、ほっとしたような目をする両親を目の前に、心配を掛けていたんだなと改めて申し訳なさと家族の温かさが心に沁みた。
 テーブルの上のトリガーに触れて、今日の余韻に浸りながらベットに横になる。迅さんや太刀川さんに村上さん……いや、同じ学校だし村上先輩、かな。ちょっと変わってそうな人達だったけど、いい人達そうだった。迅さん……は想像通りの人だったし、太刀川さんは攻撃手ランク1位って紹介されてたけど、冷静に考えたらすごい人だったのかも。村上先輩はあの中では1番年下っぽかったのに落ち着いてて、優しそうな人だったなぁ……。ていうか、ランキングとかあるのも面白そう。そういうの、燃える。1位目指したいな。
 色々と思い返していると唐突に「あ、そういえば」と思い出す。実は今日、帰りのバスの時間の関係でブースでのランク戦の方法を教えてもらえなかったのだ。うーんどうしようかと考えたところでチラリと携帯を見る。何かあったら村上先輩に聞けって言われたけど……うーん。こういうことってお願いしてもいいのかな。どうしたものか……。

「……よし」

 悩んでいてもしょうがない。連絡してみよう!と思い切ってメールを送ることにした。

"こんばんは、如月です。早速で申し訳ないんですが、聞きたいことがあったので連絡しました。お時間あるときでいいので返信待ってます"

 これでいいかなと文章を何度か確認してから送信ボタンを押した。ふうっと息を吐いて携帯を置けば、思いの外すぐに通知音がなる。

"お疲れ様。全然いいよ"

 短めの文章だけど返事が返ってきたことに少しだけほっとして続けて文章を打った。

"実は今日ランク戦について聞く時間がなくて。ブースでのやり方とか聞きたかったんですけど"
"ブースの使い方はメールで説明するのちょっと難しいかも"
"そうなんですね。では来月また2日間そっちに行けることになったのでその時に誰かに聞いてみます"
"来月くるの?いつ?"
"まだ未定ですけど土日でどこか行こうと思ってます"

 テンポよくそうやりとりをしていると、ぷつりと急に返信が途絶えた。寝たのかな?と思っていると10分くらいしてから着信が鳴る。知らない番号で出るか迷いつつもおそるおそる通話ボタンを押した。

「はい……」
『お疲れ様。村上です』
「へ!?」

 予想外の展開に驚いて声が少し上ずってしまった。恥ずかしい……。交換した連絡先はアドレスだけだったから何故?と思っていたら『迅さんから教えてもらった』と先に答えてくれた。

『さっきの話、来月来るってやつ』
「!あ、はい」
『如月さんが来る日に合わせてオレも本部に行くよ。その方が手っ取り早く教えられるし』
「え、でもそれは申し訳ないですよ……」
『いいよ。土日ならオレもランク戦しに本部に行ってること多いし』
「そう……ですか?では、お言葉に甘えますね」
『それで、この話をしたくて電話したんだけど』

 …ん?話?今までの会話の流れ何かあっただろうかと考えながら何でしょうと聞くと『宿泊先はもう決まってる?』と聞かれた。来月ボーダーに行くことが決まったのもさっきの話だし、宿泊関連のことは正直まだ調べてもいない。これからですとそのまま伝えると村上先輩は安心したように『そっか。良かった』と言って話を続けた。

『それならボーダーの支部に泊まっていけばいいよ。本部からも近いし、勿論宿泊費もかからないしね』
「え、いいんですか?」
『勿論。迅さんにも今聞いて了承もらってるから』
「それは本当に助かります……。村上先輩、来月お会いした時是非何かご馳走させて下さい」
『ははは、いいよ。本当は本部にも泊まれるとこあるらしんだけど、手続きとか面倒くさそうだったからやめた。オレも支部の人間だからよくわかんないし』
「あの、ところで支部ってなんですか?」
『来ればわかるよ。それは次会った時に話そう』

 じゃあ後の詳細はメールで、とそれを最後に電話は終了した。何というか、一言で言うと神。村上先輩神すぎる……。優しい。気遣いすごい。関係ないけど声もいい。今日会ったばっかの三下の訓練性にこんなにも親切にしてくれるだなんて。なんだか今日はいい夢が見れそうな気がする…。支部?へのお泊まりも楽しみだなあと頬を緩ませながら、ゆっくりと眠りについた。