「ーー何ジロジロ見てんだよお前」
ちょっと怖い顔してるな。そう思いながらまじまじと見てたら思いっきり睨まれて、確か第一印象はそんなだった。
荒船先輩の提案で来たのは"かげうら"と暖簾の掛かったお好み焼き屋さんで、何でも友達のお店らしい。2人の口ぶりから頻繁に訪れている様子が見て取れる。そんな仲良い友達なんだなぁ〜とぼんやり思いながら先輩達の後について店に入ると店内はそこそこに賑わっていて、土曜のこの時間だしそりゃそうかと一人で納得して足を進めた。
空いていた1番奥にある4人掛けの席に着くと、村上先輩と荒船先輩が向かい合わせに座り出してこれはどっちに座るべきなのだろう…と困惑していたら村上先輩が自然に手招きしてくれた。優しい。
「何飲む?」
「オレはお茶で」
「如月は?」
「あ、じゃあ同じので」
「了解。ほら、メニュー見て好きなの頼め。ちなみにオススメはそこの左上のやつな」
そう言った荒船先輩はメニュー表に目を通さずともオススメの掲載箇所を言い当てられるくらいには相当にここの常連らしい。「じゃあ先輩オススメのやつで」と言うと素早く定員さんを呼び止めて注文を済まして、同時にきたお水やおしぼりを手際良く配ってくれた。荒船先輩、仕事できるタイプの人なんだな。見習いたい。…というか、こういうのって下っ端である私がやんなきゃでは?と思ったりもしたけど先輩のとてつも無いスムーズな仕事ぶりに私が入る隙間などないなと早々に諦めた。
「それにしてもお前、ランク戦今日初めてだったんだろ?よく1日にそんなポイント集められたな」
やるじゃんと荒船先輩に言われたのに対して真顔でありがとうございますと返すと今度は調子乗んなよと言われる。上げて落とすタイプかこの人は。
ちなみにランク戦、最初の方はいくらトリオン体と言えども人の身体ぶち抜くのは流石に抵抗あったし、初めて当たるトリガーに戸惑って2戦、3戦負けたけど、身体が慣れてきたその後は全部勝った。正直自分でもすごいと思う。
「後半ポイント高い人狙い撃ちしてましたからね」
「高ポイントの奴に当たっても結局は勝たないとポイントにはならないだろ。ポイントよりも相手のトリガーとの相性見て選んだ方がよっぽど効率いいぞ」
「そうですか?まぁ、今のところ8割くらい勝ててますし心配いらないですよ」
「可愛くねぇなオイ」
「いやでも、実際今日すごい手応えあって。私めちゃくちゃ戦闘員向いてるかもしれません」
「…おい鋼、こいつ結構うざいぞ」
ひどい。普通に傷付く。そして意外と言葉遣い荒いんだな荒船先輩。話を振られた村上先輩は一連のやりとりに笑いながらも最後には「でも実際如月さんは才能あると思うよ」とフォロー入れてくれてじーんと心に沁みた。いや何度も言うようだけど村上先輩は本当に優しさでできていると思う。
「ま、そんな遠くない内にB上がって来るだろうし。そしたら相手してやるよ」
「え、ほんとですか」
「そうだね。オレも如月さんと戦ってみたい」
「ぜひ。明日やりましょう」
「……。だから、B級上がったらなって話だ」
「はい。私明日中にB級上がりますよ」
「……」
「その後やりましょう」
「……鋼」
こいつ頭のネジ1本飛んでんなと荒船先輩が顔を歪ませながら言った絶妙なタイミングでお好み焼きセットが到着する。あれ、私おかしいこと言った?何でこんな空気……?まぁいいか。
とりあえずお好み焼き!と思って生地と具を混ぜていると「貸してみろ」と荒船先輩に無理矢理奪われて混ぜ方をレクチャーされたけど、私そんなに下手だったのか。結局そのまま荒船先輩が焼いてくれて、村上先輩がひっくり返してソースにマヨネーズ、鰹節やら青のりやら。…気付いたら私、何もしてなかった。
はい如月さんの分と村上先輩が切り分けてくれたお好み焼きをお皿に乗せて、しっかり手を合わせてからみんなで食べる。
「〜〜〜!」
「どう?如月さん」
「めちゃくちゃ美味しいです……!」
「そりゃ良かった」
ほかほかのお好み焼きはそれはもう絶品だった。お好み焼き自体久しぶりに食べたっていうのもあるけど、単に友達のお店だからってだけじゃなく先輩達がここに通うのもわかる気がする。
「そういやさっきの話だけど、何か急ぐ理由でもあんの?」
「何の話ですか?」
「如月のB級昇格のやつ」
「あぁ。荒船には言ってなかったけど、如月さん次来れるの1ヶ月先になるから明日中に昇格しときたいんじゃないか。で、合ってる?」
「合ってます合ってます」
全く事情を知らなかったらしい荒船先輩にスカウトされた辺りからの経緯をざっくり説明すると「あぁ、迅さんから頼まれたってそういうことね」と納得したような顔で頷いていた。
「それにしても1ヶ月後こっち来たらいくらでも時間あるだろ。焦ってB級昇格する必要ないんじゃないのか?」
「別に焦ってないですよ。ただ早く強い人と戦いたいなって思ってるだけです」
「それはもう少し強くなってから言え」
「強い人と戦わないと自分がどれくらいの強さなのかわからないじゃないですか」
「ほんとああ言えばこう言うなお前は……。そんな甘くねぇぞ」
「それはわかってますけど、……うーん。荒船先輩厳しいですね」
「荒船はどっちかっていうとコツコツ積み上げてく堅実なタイプだからな。でも如月さんは自分のやりたいようにやった方が良いような気がする」
「村上先輩〜…!」
いつもフォロー入れてくれる。優しさの塊すぎる。
「おい鋼、こいつ面倒見てくれって言われてんだろ?いいのかその育成方針で……」
「育成してないし。でも実際勝率いいし明日中に昇格も可能性は十分あると思う」
「はぁ…言っとくけど不可能って言ってるわけじゃないからな、調子乗ってるとボコボコにされんぞって話。わかったか?」
「肝に銘じます」
「おう。分かれば良し」
言葉は荒いけどなんだかんだで荒船先輩も優しい。じゃあそろそろ行くかーと帰り支度を始めた瞬間にお会計は任せて下さいと圧を掛けながらすかさず伝票を奪った。荒船先輩に甘えとけと言われた村上先輩は全く譲るつもりがない私をみて何とか諦めてくれた。良かった。何も考えてなかったけど普通に3人分ご馳走しようと思ってたところに荒船先輩が千円札をスマートに置いて「会計だけ頼むわ」と立ち上がる。ついでなんで先輩の分も払いますよと言うとオレは何もしてねぇからと断られた。みんな頑固だな。
先外出てて下さいと言うと各々お礼を言って店を出て行く。私も手早く会計を済ませようと思った時にそういえばと思い出したようにお手洗いに寄って、でもトイレ長い奴だと思われたくないから豪速球で済ませた。
入口付近まで来ると話し声が聞こえて、少し待たせてしまったけど話盛り上がってるみたいで良かったーと呑気に思いながら戸を開けたら2人は背を向けていて、その先に誰かいた。
先輩方仲良さそうな話してるけど友達?ちょっと怖い顔してるな。そんなことを色々考えながらまじまじと見ていたもんだから思いっきり睨まれて、つまりは冒頭に戻る。
「あ゛?何ジロジロ見てんだよお前」
怖。喋り出したら更に怖。男が発言すると私の存在にようやく気付いた先輩達が「カゲ、こいつさっき言ってた訓練生」「で、こっちは例のお好み焼き屋の友達」と同時にフォローを入れてくれた。息ぴったり。
「あ、お好み焼きご馳走様でした」
「……お前、女か?」
「一応女ですが」
答えるとチッと舌打ちされる。え?何?怖い。
「お前らがうざくて生意気な面白そうな奴だっつーから期待したじゃねーか」
「そんな顔すんなよ。さっき如月のこと思いっきり捻り潰すとかいってただろ」
「えぇー…」
面識一切無いのにひどい…。というか普通にどこからつっこめばいいのか分かんないんだけど、とりあえずなんか私可哀想…。でも絶対うざくて生意気な部分は荒船先輩だ。先輩が1番ひどい。
「カゲ…さんも、ボーダーの人なんですか」
「そうだよ。あれでも数少ないA級部隊の隊長」
「…A級隊員」
じゃあ強いんだ。…へぇ。目を細めてカゲさんを見ると、ぴくりと眉を動かしてまた睨まれる。きっとこれから強い人が沢山いて、その頂点にA級がいて、そのうちの1人が彼。攻撃手かな、どんなトリガー使うんだろう。…戦ってみたい。
「オイてめぇ…いい度胸じゃねぇか」
「?何も言ってませんが」
「殺気が伝わってんだよ」
「…はい?」
それを見た荒船先輩はため息を吐きながら「如月お前、戦うことしか考えてねぇのか」と呆れた表情でこっちを見てる。どういうことだ、殺気なんて出した記憶ないけど。というか荒船先輩私のことなんだと思ってるんだ…。
「一応誤解を招きたくないんで言いますけど、殺気とかそんなんは出してないです、ほんとに」
「……」
「とりあえず強いって聞いたら戦いたくなるじゃないですか。そういう気持ちです。…まぁ、期待された分答えないとなとは思ってますけど」
「…はぁ?」
「何か捻り潰してくれるみたいなんで、潰し返します」
「!」
あ、確かに今の私生意気だったかもと少しだけ思う。…けど、やっぱりなんか認めたくないような気がするのはきっと荒船先輩のせいだ。
売り言葉には買い言葉じゃないけど、昔から言われると黙ってはいられない性分で敵が多かった気がするし、今更直す気もないからしょうがない。そして、それを聞いて思いっきり顔を歪めたカゲさんに、私は多分好かれていない。けどその後に「面白れぇ」と言ってギラリと目を光らせながらとんでもなく悪い顔をした彼のことを、私も面白そうな人だと思った。