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二日続けての宴会や豪華な夕食を楽しみ、満腹感を実感し始めた頃、急にみんなが落ち着きなくソワソワし出した。首を伸ばして、待ちきれないという顔をで教職員テーブルを見たり、折角のハロウィーン・パーティなのに、全員がいつもより時間の流れを遅く感じている。
それもこれも、いつ代表選手の発表が行われるのかという思考に支配されているからだ。最早、早く皿の中身が片付けられたらいいのにとさえ思っている生徒もいるだろう。
そしてついに、金の皿がきれいさっぱりと、もとの真っさらな状態になった。一斉に期待一色で染まった顔を互いに見合わせ、「ついにきたぞ!」と誰かが叫んだ。しかし、その騒めきも、ダンブルドアが立ち上がると一瞬にして消え、緊張と期待感が大広間を包む。
「さて、ゴブレットは、ほぼ決定したようじゃ」
ダンブルドアの声だけが、静かに、深く、緊張感に溶け込むように響き渡る。
「わしの見込みでは、あと一分ほどじゃの。さて、代表選手の名前が呼ばれたら、その者たちは、大広間の一番前に来るがよい。そして、教職員テーブルに沿って進み、隣の部屋に入るよう――」
ダンブルドアは、言いながら教職員テーブルの後ろにある扉を示した。
「――そこで、最初の指示が与えられるであろう」
ダンブルドアは杖を取り、大きく一振りした。すると途端にくり抜きかぼちゃの中に灯るぼんやりした灯りも、大広間を照らす何本もの蝋燭の炎が消え、か細い煙を燻らせる。部屋に灯るのは、「炎のゴブレット」が放つキラキラした青白い炎。それだけを残し、ほとんど真っ暗闇になった。
ゴブレットの炎が、突然真っ赤に燃え上がった。飛び散る火花がギラッ!と光り、目が痛い。しかし、「痛い」ことを自覚するよりも早く、炎がメラメラと宙を舐めるように火柱をたてた瞬間、炎の赤い舌先から、焦げた羊皮紙が一枚、ハラリ――それは漂って、ダンブルドアに捕らえられる。
ソフィアは、否、ソフィアだけではなく、全員が固唾を飲んだ。再び青白くなった炎の明かりで羊皮紙に書かれた名前を読もうと、ダンブルドアは腕の高さに差し上げた。
「ダームストラングの代表選手は」
力強い、はっきりした声で、ダンブルドアが読み上げた。
「ビクトール・クラム」
一瞬で拍手の嵐、歓声の渦が湧き上がった。クラムはスリザリンのテーブルから立ち上がり、前屈みにダンブルドアのもとに歩いていく。教職員テーブルに沿って歩き、その後ろの扉から、隣の部屋へと消えた。
有名人への賞賛の声はなかなか止まず、「そうこなくっちゃ!」と飛び上がるロンもさながら、カルカロフ校長までもが大声で叫んでいた。拍手とお喋りが収まり、再びゴブレットに視線が集中しだした。再び赤く燃え上がった炎が、二枚目の羊皮紙を吐き出す。
「ボーバトンの代表選手は」
ダンブルドアが読み上げた。
「フラー・デラクール!」
「ロン、あの人だ!」
ハリーが叫んだ。レイブンクローのテーブルから優雅に立ち上がったフラーは、シルバーブロンドの豊かな髪をサッと振って後ろに流し、ソフィアへ視線を寄越すと左頬に笑顔を滲ませる。「あの人、僕に笑いかけたぞ!」と誰かが叫んだ。フラーは、レイブンクローとハッフルパフのテーブルの間を滑るように進み、隣の部屋に消えると、また沈黙が訪れた。
今度は、興奮で張りつめた沈黙が、ビシビシと肌に食い込むようだった。最後に残っているのは、ホグワーツの代表選手だけ……。スリザリンも、グリフィンドールも、ハッフルパフも、レイブンクローも、皆、自分の寮から代表選手が選出されるのを願っている。
「ホグワーツの代表選手は」ダンブルドアが、三枚目の羊皮紙を読み上げた。
「セドリック・ディゴリー!」
ハッフルパフから爆発のような大歓声が沸き上がった。ハッフルパフ生が総立ちになり、叫び、足を踏み鳴らして、立ち上がったセドリックを送り出した。他の寮から僅かに起こった落胆の声を消し飛ばす勢いである。
セドリックはニッコリと笑い、その中を通り抜け、教職員テーブルの後ろの部屋へと向かった。
「さて、これで三人の代表選手がきまった。選ばれなかったボーバトン生も、ダームストラング生も含め、みんな打ち揃って、あらん限りの力を振り絞り、代表選手を応援してくれることと信じておる。選手に声援を送ることで、みんながほんとうの意味で貢献でき――」
ダンブルドアが突然言葉を切った。「三人」の代表選手を輩出したはずの「炎のゴブレット」が、再び赤く燃え上がったのだ。ソフィアは、なに? と葡萄色の双眼を細めた。火花がほとばしる。空中に炎が伸びあがり、「四枚目」の羊皮紙がゆらりと吐き出された。ダンブルドアは、神妙な目でそれを見つめ、長い手を伸ばし、羊皮紙を捉えた。それを掲げ、そこに書かれた名前をじっと見つめている。皆、何が起こっているのか、まるで理解できなかった。長い沈黙――大広間の目がダンブルドアに集まっている。
やがて、ダンブルドアが咳払いし、そして読み上げた――。
「ハリー・ポッター」
細めていたソフィアの葡萄色の目が、見開かれた。
今、誰の名前が呼ばれたの?
ソフィアは、一瞬自身の聞き間違いかと思った。けれど、大広間の目が一斉にハリーへ向けられた。先ほどの三人に向けられていた祝福の目では無い目が。顔の前で組んでいた両手の指を解き、驚きのあまり開く口を隠す。
ゴブレットに名前を入れる資格すらないハリーが、どうして。
誰も拍手をしない。
誰も歓声をあげない。
静まり返った大広間。グリフィンドールのテーブルには、凍り付いたまま座っているハリー。上座では、マクゴナガルが立ち上がり、ルード・バグマンとカルカロフの後ろをさっと通り、切羽詰まったように何事かダンブルドアに囁いた。ダンブルドアは、微かに眉を寄せ、マクゴナガルの方に体を傾け、耳を寄せている。ホグワーツの生徒たちの驚きが怒りへ変わるのにそう時間はかからなかった。